2013年11月27日

有休の消化は病院の“義務”

休暇を取らなければ良い仕事ができない
ドイツの医師の報酬とワークライフバランスVol.3

馬場恒春
ノイゲバウア-馬場内科クリニック(デュッセルドルフ)

 今回は「ドイツの医師の報酬とワークライフバランス」シリーズの最終回として、休暇(ウアラウプ: Urlaub)に焦点を合わせてみたいと思います。ドイツ人には、医師に限らず、「ウアラウプは国外の滞在型保養地でゆっくりと過ごしたい」という願望があります。ですから、有給休暇の日数を月収の額と同じように大切に考えているのです。

フルタイム労働者の有休消化率は96%!
 ドイツには連邦休暇法(Bundesurlaubsgesetz)という法律があり、継続勤務期間が6か月以上の労働者は、1年につき少なくとも24日以上の有給休暇を取れることになっています。2011年のドイツ経済研究所の報告書[1]によると、ドイツのフルタイム労働者の63%が平均約30日の有給休暇を完全消化、残り37%も有給休暇の約9割を消化しています。

 全体では有給休暇の消化率が96%と非常に高いのですが、それでもこの報告書は「37%もの人が完全消化に至っていない」ことを問題視しているのですから、日本人の目から見れば驚きです。実際、従業員の休暇がきちんと消化されていないと、事業所の管理者は事業所委員会(Betriebsrat)から問題視されることがあります。また、法定労働時間を超えて労働させれば、罰則の対象となりかねません。

 タリフ・フェアトラーク(Tarifvertrag:賃金協約)では「休暇」のことを、前にわざわざ「レクリエーション」(erholung)を付けて“Erholungsurlaub”(レクリエーション休暇)と表現しています。つまり、「医師がより良い仕事をするためには休暇による気分転換が必要」という発想が根底にあります。そのため、休暇を取ることは勤務医の権利であり、病院といえども上司が部下の休暇の取得を理由なく不必要に妨げることは許されません。

 病院勤務医のタリフ・フェアトラークでは、週5日40時間勤務の30歳未満の勤務医は年間26日、40歳未満は年間29日、40歳以上は年間30日(ヘッセン州のみ50歳以上は年間33日)の有給休暇が認められています。週3日の勤務ならば、各々を5分の3倍した日数となります(例えば、40歳以上は年間18日)。

 仮に年内に有給休暇を消化できない場合は、残った有給休暇日数の3分の1までは翌年の3月末日まで繰り越すことができます。繰り越した有給休暇と合わせ1か月以上の長期旅行に出かけることも可能になるのです。

 かつて、フンボルト財団の研究者としてデュッセルドルフ大学(現・ハインリッヒ・ハイネ大学)に留学していた頃、日本に比べてあまりにも長い夏休みに不安を覚えた小心者の私は、その途中で何度か大学に顔を出したことがあります。「仕事熱心だね」と称賛されることはもちろんなく、「休み中に職場に来るとは、お前はいったい何を考えているのか」というような顔をされたのを覚えています。

 開業医院(プラクシス:Praxis)の医師については、休暇を取る時期や期間は当然のことながら自由です。週末の土日と祝日は休診で、さらに各々のクリニックの状況に合わせて、休みが設けられます。家族旅行のため、春夏秋冬の学校休みに合わせて休診とする開業医院も多いようです。私たちの場合、復活祭(イースター)前後の春休み(1〜2週間)、夏休み(2〜3週間)、秋休み(1〜2週間)、クリスマス休暇(1〜2週間ほど)を取るようにしています。中には、夏休みを6週間ほど取ったり、1週間程度の休みを数度に分けて取ったりする開業医院もあります。クリニックをしばらく休診にするときは、近隣の同じ専門科の開業医に代診をお願いし、患者には必要時のみ、そちらを受診してもらうことになります。

 知り合いのドイツ人の臨床開発研究所長は、「職場の自分のコンピューターのパスワードを忘れるくらいリフレッシュされないとダメだ」と冗談混じりに語っていました。確かに私も、先の夏休み明けの初日の朝に、電子カルテの自分のパスワードを思い出せず大いに焦りました。リフレッシュされたためか、物忘れが気になる歳になったためか、フランスで飲みすぎた赤ワインの影響だったのか、理由は分かりませんが。

休暇は国外の保養地へ大移動
 冒頭でも述べたように、ドイツ人は休暇になると国外(特に南欧)での長期滞在を楽しむ人が多く、各季節の休暇シーズン(学校が休みとなる時期)には「現代の民族大移動」と呼ばれるほど、アウトバーンは「超」が付く大渋滞。そのため、各州の学校で休みの開始と終了の日は他の州と重ならないように配慮されています。飛行機に乗って2時間半程度で行ける地中海のマジョルカ島やギリシャの島々であれば、例えば6泊7日で2食付き、往復の飛行機代を含めて1人300ユーロ程度から海辺でのバカンスを楽しむことが可能です。シーズン中の保養地は、ドイツからのお客さんでいっぱいということもよくあります。

 一般の仕事に就く人の場合は、復活祭前後の連休、その50日後にある聖霊降臨祭(ペンテコステ)前後の連休、クリスマスの時期の祝日と有給休暇を上手に組み合せて、できるだけ長く休もうとするケースが多いです。例えば、祝日が1日ある週に4日間の休みを取ると、前週の土曜日から次の日曜日までの連続9日間の休みになります。しかし、勤務医であれば、全員が全く思い思いの時期に休みを取ることが困難なのはドイツでも同じです。

 一般に、学校に通う子どものいる医師は、学校の休み(復活祭、聖霊降臨祭、夏休み、秋休み、クリスマス)に合わせ有給休暇を取ります。独身の医師なら、多くの人で混み合うこれらの時期を外し、オフシーズンに手頃な金額で南の島や海辺での休暇を楽しむといった傾向もあるようです。

 医師であるなしにかかわらず、休暇前日の仕事が終わったらすぐに保養地へ出発し、休暇の最終日に(時には出勤日の当日早朝に)自宅に戻ってくる人もいます。中には、長時間の移動、休暇中の遊びすぎ、食べすぎ、時差、気候の変化、さらに消化器系の感染症などで、休暇中に体を休めるどころか、体調を崩して休暇が終わってから“真の休暇”が必要となる人も…。これは「ウアラウプ病」と呼ばれ、“Warum ist man nach dem Urlaub immer krank?”(なぜ休暇後は具合が悪くなるのか?)としばしば言われるほどです。

 「医師の家族のバカンスなのだから、ファーストクラスの飛行機を乗り継いで、高級保養地のブティックホテル(いわゆるオシャレなホテル)に滞在しているのだろう」。一連のシリーズを読んでくださった方なら、こうは思われないでしょう。もちろん、そんなことはありません。少なくとも、大半のドイツの開業医は…。

 私の家庭のドタバタ旅行をいくつか紹介しましょう。一昨年はドバイ旅行、昨年秋はドイツ南のボーデン湖、冬は近場と思って選んだケーニッヒウィンター(ただし、滞在中にライン川の増水氾濫でホテルが孤立してサバイバルツアーに変貌)、今年の夏は南西フランスから北スペインまで炎天下の自家用車旅行、そして秋は寒風吹き抜ける季節外れのリューゲン島(バルティック海の島)といった具合です。他のドイツの人たちに比べて近距離の短期旅行が多いのは、ギムナジウムに通う愚息のサッカーの練習と試合のスケジュールの合間を縫って出かけているためです。

 中でも予想外に面白かったのは、医学雑誌のツアー広告で見つけた「ドバイ8日間」。往復フライト、ホテルまでの送迎、海岸に面した4つ星ホテル7泊(2食付き)、観光ツアー付きで1人800ユーロ(約10万円)というものでした。

 往復の空路はイギリスの有名な格安フライトで、6時間を飛ぶにもかかわらず座席のリクライニング機能はなし。その上、現地に着いてから分かったのですが、宿泊地はドバイではなく、ホテル内であってもアルコール厳禁の隣国シャールジャ首長国(アラブ首長国連邦を構成する首長国の一つ)。毎朝早朝からホテルに隣接したモスクから鳴り響く礼拝のサイレンで目覚める日々…。それでも、アルコールを断ち、野菜を多く食べるという至って健康的な生活だったせいか、ウアラウプ病にかかることもなく、実に学ぶことの多い楽しい休暇旅行となりました。

クリスマスは里帰り、元日は家族・友人と大騒ぎ
 秋季休暇から戻って来るとサマータイムも終わり、11月下旬からはクリスマスシーズンが始まります。しかし、ドイツのクリスマスは至って静かで、「クリスマスイブに皆でパーティー」などということはあまり聞きません。ドイツのクリスマスとお正月の雰囲気は「日本の場合とちょうど逆」と言ったら分かりやすいかもしれません。 ドイツのクリスマスは、日本のお盆やお正月に似て、自分の郷里に戻り、家族や親戚と過ごすホームカミングの時期とされています。街はレストランを含めてほとんどの店が閉まり、人通りもまばら。「クリスマスイブに友達とディナーを…」と思っても、営業している店を探すのが難しいくらいです。

 一方、大晦日(シルベスター)は友達で集まって食卓を囲み、カウントダウンと共にゼクト(フランスのシャンパンに当たる)で乾杯。無数の花火を打ち上げて大騒ぎをします。当然、静かに響き渡る除夜の鐘をしんみりと聞きながら行く年を顧み、元日には初日の出を拝んで新たな年をスタートする…といった情緒はありません。なお、元日は普通の祝日の扱いで、1月2日からは平日であれば通常通りの仕事が始まります。

 今回の「報酬とワークライフバランス」シリーズを通して、ドイツの医師の境遇を少しは理解していただけましたでしょうか。まだ開業医を取り巻く状況がそれほど厳しくなかった1990年代にドイツを離れて日本に住んでいた家内は、12年後に再びドイツに戻ったとき、医療環境の大変化に驚きっぱなしで、まるで“浦島花子”になったようでした。

 次回は、ドイツ医療の特徴の一つである「植物療法」と「ジェネリック薬」の普及についてご紹介したいと思います。

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【ドバイでの砂丘体験ツアーで家内とのツーショット。 】

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【ドバイの観光ルートに入っていた豪華ホテル。あっと驚く内装が素晴らしい。】

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【ボルドー近くの古城ホテルの庭で朝食。休暇中の家内は朝からリラックス、リラックス。 】

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【リューゲン島で過ごした秋休み。森林の遊歩道を散策中。 】

【Reference】
1)Schnitzlein D:Umfang und Folgen der Nichtinanspruchnahme von Urlaub in Deutschland,DIW Wochenbericht,51+52:14-23,2011.
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