2014年02月10日

妊娠、中絶、妊娠、流産を経験した15歳の少女は…

オーストラリアGPからの挑戦状(5)解答編

小林孝子
ビーンリー・ロード・メディカルセンターGPフェロー

 前回の「オーストラリアGPからの挑戦状(5)」の解答編を始めます。まずは設問から振り返ってみましょう。

 今回は、第1回目の「挑戦状」で紹介したソマリア人の少女(15歳)が、再び登場します。名前を仮にエイミーとしましょう。

 その後(妊娠中絶をした後)、エイミーは避妊が必要だと言われていたにもかかわらず、間もなく再び妊娠して、今度は流産してしまいました。これにはさすがに懲りて、インプラノン(implanon、上腕の皮下に埋め込むタイプの避妊具〔後述〕)を使い始めました。それから2カ月。しばらくクリニックに来ないので“No news is good news.”と思っていたら、先日、インプラノンを取ってほしいということでやって来ました。この2カ月間、毎日のように出血して生理用パッドが手離せず、とても煩わしいとの訴えです。

 「インターネットを見ると、インプラノンの悪いことばかり書いてある。とにかく出血するのは嫌。ちゃんと毎日服用するからピルに切り替えてほしい」。

 エイミーには19歳の姉がいて、その勧めでインプラノンを使い始めました。同じくインプラノンを使う自分の調子には問題ないし、ピルを毎日ミスなく服用するのはエイミーにはまだ難しいという理由からの勧めでした。

 「母にも姉にも相談していない。家族に言うと反対されるかもしれないから言わないでほしい。姉は大丈夫なのに、私ばかり出血するなんて…」。

 さて、皆さんなら、この患者のインプラノンを取るでしょうか、取らないでしょうか? 日本で未承認のインプラノンにはなじみがないと思いますので、以下の説明とリファレンスを参考に、考えてみてください。

 インプラノンは、特殊なデバイスで上腕の皮下に埋め込むタイプの避妊具です。長さ3cm、直径2mmの中にプロゲステロン(etonogetrel)68mgが入っています。効果は3年。有効率は99.9%。最も多い副作用は性器出血で、20〜25%の頻度で起こります。

 回答のヒントとして、次の2点を挙げておきます。

・インプラノンによる性器出血は、およそ3か月で治まる。念のため、子宮頚癌およびクラミジアのテストをして陰性を確認する。
・インプラノンを入れたまま出血をコントロールする方法を考える。出血の多い日はトラネキサム酸や NSAIDsを服用させたり、インプラノンを入れたまま経口避妊薬を服用させたりする方法が試みられている。

 患者のエイミーが、未成年であっても自分自身を管理し、きちんと毎日ピルを服用して、同じ過ちを繰り返さないことができるか。今回のケースを考えるポイントは、まずここにあります。そして、その実行が疑わしいと判断した場合、医師としてどう対応すればいいか悩みどころです。インプラノンを入れておけば、彼女自身が避妊を管理できないとしても、再々妊娠のリスクをなくすことができ、家族としても安心できるのでしょうが…。さて、その後のエイミーはどうなったでしょうか?

 まず、私は彼女に資料を見せながら、「この性器出血はしばらくすれば治まってくるから」と説明しましたが、彼女は「聞く耳持たず」という感じで全く興味を示しませんでした。

 そこで、「インプラノンを入れたままピルを服用して出血をコントロールしたらどう?」と勧めてみました。「ピルを服用できるなら、インプラノンを入れたままでも同じだよ」と言ったのですが、彼女は「インプラノンは嫌」の一点張りでした。

 私は、彼女にはまだ成人と同等の判断力と理解力はないと思っていたので、保護者(親)かそれに次ぐ者(19歳の姉)が決定権を持っていると考えました。すぐにでも彼女の家族に電話したい衝動に駆られましたが、本件は性的虐待や生命にかかわることではないので、相手が未成年であっても守秘義務を守らなければなりません。なんとか彼女の合意の下で家族を巻き込み、解決策を探りたかったのですが、「家族に知られたくない」という彼女の決心は想像以上に固かったのです。

 結局、自分の判断だけで「インプラノンを除去する」と言って譲らなかったので、私はいったん彼女を家に帰しました。「よく考えて、家族にも相談するように」と。しかし、彼女は後日に別のクリニックを受診して医師と大げんかした末、インプラノンを除去することに合意させたのでした。その医師は“We had a big argument.”と言っていました。

 その医師は除去することを決めてから、エイミーの姉に電話して事の経緯を説明し、ピルをちゃんと飲んでいるかチェックしてもらうように依頼し、彼女も快諾したとのこと。今度ばかりはエイミーが「いい子」でいることを祈るばかりです。今のところ、しっかりと服用しているようですが…。

 なお、今回のようにトラブルに発展しかねない事例では特に、診療に関する詳細な記録をカルテに残しておくことを忘れてはなりません。何かあったとき、その記録が役立つでしょう。

 また、対応に迷ったら医療過誤賠償保険会社(medical indemnify insurance)に相談することも、オーストラリアでは鉄則です。医療過誤賠償保険会社については、過去の説明を参照してください

【References】
1)Merck:IMPLANON添付文書(900415-IMP-IPT-USPI.6),2012.
http://www.merck.com/product/usa/pi_circulars/i/implanon/implanon_pi.pdf
2)Implanon NXT insertion(YouTube)
http://www.youtube.com/watch?v=ug7q_1RUMio
3)ZEST Healthcare Communications:Joint statement:Bleeding pattern changes with progestogen-only long-acting reversible contraceptives.
http://www.fpq.com.au/pdf/Br_BleedingPattChangesLARCs.pdf
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