2010年01月26日

アメリカのコメディカルはここまでやっている!

河合達郎
(マサチューセッツ総合病院移植外科/
ハ―バード大学医学部外科准教授)


 前回取り上げた、アメリカにおけるマネジドケア(2009.11.27「マネジドケアで医師の裁量は尊重されるか」の続きをお話します。マネジドケアでは出来高払いではなく定額支払いとなるため、入院期間を可能な限り短くすることがポイントになることは既に述べました。
 入院期間をできるだけ短くするためには診療の機動性・迅速性が重要ですが、アメリカで働き始めた当初はそのスピードに度肝を抜かれました。朝の回診時に入院患者のオーダーを出すのは日本と同じですが、CT・MRI・内視鏡検査などのすべてのオーダーは、血液検査の結果を出すがごとく当日中に完了します。画像診断だけでなく、インターベンショナルラジオロジー[注]のような高度で複雑な治療も、その日のうちに完了します。

 日本の大学病院では、特別に「緊急」というかたちでオーダーしない限り、入院患者でさえ1週間、へたをすると1カ月もかかったものです(今では少しは改善されたのでしょうか)。先端機器の性能は、日本の方が進んでいるぐらいですから、日米の違いは、単純にマンパワーの違いであると言えるでしょう。日本で必要なのは医療のスピードについての意識改革です。


マンパワー、日米比較

オーダーに対応する放射線科だけでなく、病院全体のマンパワーも、アメリカと日本では比較の対象になりません。

 日本では午後5時以降は病棟事務が不在でしたから、夜間の入院が決まると、研修医が外来に走って外来カルテを見付けなければならず、ナースもベッドメーキングやカルテ作りなどでてんてこ舞いでした。一方、アメリカでは病棟事務は24時間、交代制で各病棟に張り付いています。そのため、夜中でも各病棟の事務がカルテをそろえ、ベッドメーキングや掃除なども専門の職員が行なっています。



[注]インターベンショナルラジオロジー(interventional radiology;IVR):放射線透視下に患部にカテーテルなどを挿入して行なう非外科的な治療の総称。


 点滴と薬剤の静脈注射は、日本の大学病院では研修医の朝夕の重要な仕事ですが、アメリカでは医師やナースは点滴など一切取らず、末梢静脈ライン確保だけを専門にしているIVナースというスタッフを呼びます。

【点滴セットの入ったバスケットを持って、院内を駆け巡るIVナース】
IV.bmp

 日本の大学病院では、患者の退院・移送先の病院探しは病棟医長の責任でした。「厄日の退院はイヤだ」と言う患者をなだめすかして転院先の病院に連絡することもあり、大変だったのを憶えています。しかしアメリカでは、退院サマリーを書くことこそ研修医の責任ですが、退院時の様々な雑用(転院先探しや移送、訪問看護のセットアップなど)は、すべてケースマネージャーが行なってくれます。ケースマネージャーは、患者の状態を逐一把握していなければならないため、チーム医療の一員として回診にも同行します。

 病棟医が手薄な場合には、入退院時や入院中の検査オーダーなどはNP(ナースプラクティショナー)が担当してくれます。外来では、PA(フィジシャンアシスタント)が全体の3分の1ほどの患者を診ています。NPやPAは医師の監督下で働いているスタッフですが、独立した診察や薬の処方ができます。

 病棟の呼吸器管理は、呼吸器ユニットからテクニシャンが来て管理しています。また中心静脈栄養は、日本では主治医がカロリー計算などの処方をオーダーしていますが、こちらでは主治医が適応を決定する以外、細かい組成などは栄養科が管理しています。日本で栄養科というと病院食しか扱っていない印象がありますが、アメリカでは経腸栄養、経管栄養などすべての栄養管理を取り仕切っています。

 手術室は64室をフルに回転させるほか、10室ある外来手術室も常に満杯の状態ですが、手術の麻酔については、麻酔科医のほかにもナースアネッセティスト(麻酔看護師)が手助けしています。また、手術室のスクラブナース(器械出しナース)は、日本では正規の看護師の仕事ですが、こちらでは手術室テクニシャンがその多くを担っています。日本では、夜間の緊急手術時に看護師がおらず、医局から器械出しのための医者を出すのが普通でした。

 さて、ここまで読んで、アメリカの医療費対GDP比率が16%(日本は8.1%、「OECD Health Data 2009」より)にまでなってしまう理由がお分かりになったかと思います。明らかにこれは行き過ぎで、日本でそのまま同じことをする必要はないでしょう。しかし、日本のマンパワーは極端に少な過ぎます。

 日本では、マンパワーが圧倒的に少ないという問題の抜本的な解決がないがしろにされ、文句の言えない無給医局員などに多くの仕事を押し付けてきたのです。その結果として無給医局員は、日中は雑事に忙殺され、夜間はアルバイトをして生計を立てるという過酷な労働を強いられてきました。医局は医局で、週1日は彼らをアルバイトに出す必要があるため病棟が手薄になり、さらに無給医局員を採らなければならないという悪循環に陥ってきました。

 現在、私たちマサチューセッツ総合病院の移植外科は5人のスタッフ外科医、1人の臨床フェロー、2人のレジデントで毎日の業務をこなしていますが、前述したようなマンパワーなしでは、1日たりとも病棟・外来を回していくことはできません。


コメディカルの力を活用しよう

 最近日本では、医師の数を増やすことが緊急の課題として議論されていますが、医学部定員を増やしたところで、本当に医師を必要としている場所・科目の需要が満たされるとは限りません。アメリカの医療を参考に、もっと医師以外の多様な職種、つまりコメディカルを増やすことで、現在の医師の激務を軽減することの方が効率的で実際的だと思いますが、どうでしょうか。おそらく医療費の面でも、医師を増やすよりはずっと経済的だと思います。

 IVナースや手術室の助手などは正規の看護師である必要はなく、医療専門学校などがきちんとしたプログラムの下で教育すれば、十分に仕事をこなせるはずです。また看護師には、さらに2年ほど勉強することにより、その上の段階であるNPなどにステップアップできる機会を与えるべきでしょう。アメリカでは、一般大学卒でも2年間以上専門学校に通えばPAの資格が取れますが、教育期間が短い割に驚くほどレベルが高くて優秀です。

 PAについては、まだ日本では時期早尚かと思いますが、いずれは導入を考えていくべきでしょう。コメディカルの業務範囲の拡大に関して、医師という特権的職業を脅かすものだという議論が日本ではあるようですが、まったくの見当違いです。むしろ、医師を助けてくれる心強い助っ人だと考えるべきです。

 日本では民主党が政権を取りましたが、これを機に規制緩和を進め、さまざまなコメディカルを増やすための新しい法律を作ることが緊急の課題ではないでしょうか。そのためには、厳しい予算の中ではありますが、医療費対GDP比率を現在の8%から他の先進国並みの10%程度に増やす必要もあるかと思います。

 莫大な医療費で悩むアメリカのまねをする必要はありませんが、このままでは日本の医療の未来が描けないというのも事実です。コメディカルを増やすことは、日本の医療を崩壊から救う最も有効な手段であるだけでなく、雇用も創出できるという理想的な政策だと私は思いますが、皆さんはどうお考えになるでしょうか。
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