2010年05月01日

医師の労働時間を考える Vol.3

ホスピタリストの誕生― 彼らは急性期病院の救世主になるか?

永松聡一郎
(ミネソタ大学呼吸器内科/
集中治療内科クリニカルフェロー)



 これまでの連載では、1984年のリビー・ジオン事件をきっかけとして、2003年にACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education:卒後医学教育認定評議会)がレジデントの労働時間を週80時間以内に規制するまでの過程を解説してきました。


 この80時間労働制限の影響を顕著に受けたのは、レジデントの労働力に依存していた、急性期医療を受け持つ大規模の教育病院です。単純に計算して、週100時間働いていたレジデントが週80時間しか働けなくなると、レジデントによって担われていた労働力の20%を失うことになります。この失われた労働力を埋め合わせるには、医師の数を増やすか、医師によって行なわれている業務を他の医療職種で分担するか、医師の生産性 (productivity)を上げるか、いずれかの必要があります。

 医師の数を増やすといっても、メディカルスクールの定員を増やしてから医学生が卒業するまでには4年間かかります。さらに、新卒の医師が一人前になるまでには数年間の卒後教育(レジデンシー)が必要ですから、効果が出るまでには長い年月がかかります。外国人医師を「輸入」する手段も考えられますが、アメリカではごく一部の例外を除き、外国で経験を積んでいる医師でも、レジデンシーのトレーニングを初めから受け直さなければ正規の専門医になることができません。ですから、2000年代のアメリカでは、医学部入学定員を急増させることや、外国人医師への門戸が急激に拡大することはありませんでした。

 さて、医師によって行なわれている業務を他の医療職種が代わって行なうことを「代用」(physician substitution)と呼びます。これは近年のアメリカで起こっている現象で、「ミッドレベルプロバイダー」(mid-level provider)と呼ばれるフィジシャンアシスタント(PA)やナースプラクティショナー(NP)が、医師の行なっている業務の一部を補助ないし代行しています(この代用が進んだ歴史的な背景については、また別の機会に述べたいと思います)。

 では、医師の生産性を上げることができるのでしょうか? それを可能にしているのが、急性期病院のエキスパートである「ホスピタリスト」(hospitalist)と呼ばれる新しい専門家たちです。今回は、このホスピタリストが誕生した背景をリポートしたいと思います。

【ミネソタ州内最大で約70人のホスピタリストを抱える HealthPartners Medical GroupのチーフであるDr. Jerome Siy(写真右)と筆者(左)。】

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マネジドケアが生み出したホスピタリスト

 さて、hospitalist とは、 hospital (病院) + ist (〜を専門とする人) という語から予想されるように、病院における診療に特化した医師のことを指します。そして、彼らが専門とする医療分野のことを「ホスピタル・メディシン」(hospital medicine) と呼びます。

 ホスピタリストという言葉が最初に現れたのは、1996年のThe New England Journal of Medicine誌における記事です[1]。この記事の執筆者は、マネジドケアにおいて効率のよい医療を追求していくうちに、プライマリケア医の中でも急性期病院での治療に特化する医師がやがて必要になるだろうことを予言しました。

 翌97年には、ホスピタリストの集まりである協会National Association of Inpatient Physicians (NAIP)が設立されました。このNAIPは2003年に名称をSociety of Hospital Medicine(SHM)へと変え、現在では約1万人の会員を擁する学会へと成長しています[2]。

 ところで、ホスピタリストの定義とは何でしょうか。SHMによると、ホスピタリストは急性期の重篤な入院患者を治療するほかに、次のような役割を担うことで、病院やヘルスケアシステム全体の効率を高めるために存在するとされています。

・診断・治療・手技を含む、患者が必要としているすべてのものを、迅速かつ網羅的に提供する。
・quality improvementという、診療の質を向上させる方法論を実践する。
・入院患者にかかわるすべての医師や医療従事者とコミュニケーションを取り、協力する。
・患者が他の病院や長期療養施設に転院する際や、自宅へ退院する際に、安全に次のステップに移れるようにする。
・病院内の資源や医療資源を効率的に利用する。

 ホスピタリストの平均的なプロフィールを紹介してみましょう。平均年齢が37歳、男性の割合が63%。ホスピタリストとしての勤務経験が3.7年、外国医科大学出身割合が29%となっており、レジデンシーを修了した後の、比較的若手の医師がホスピタリストとして働いている様子が分かります。また、ホスピタリストがトレーニングを受けたバックグラウンドは、一般内科 82.3%、小児科6.5%、家庭医学3.7%、内科+小児科(Med/Peds) 3.1%となっており、一般内科のトレーニングを受けたホスピタリストが多い現状が分かります。

 こうしたホスピタリストは増加する傾向にあり、2007年には約2万人だったのが、2010年には3万人以上に達すると予想されています。そして、アメリカ病院協会の報告(2005年)によると、ホスピタリストを採用している病院の割合は40%、200床以上の病院では70%であり、2004年からの1年間で20%も増加しました。アメリカでは医師がグループを形成して、病院と診療を行なう契約(privilege)を結ぶことが多いのですが、その1つのグループ当たり平均8.3人のホスピタリストで構成されています。以上のことから、ホスピタリストが普及している様子が見て取れるでしょう。


【図1 アメリカにおけるホスピタリストの増加(アメリカ病院医療協会およびアメリカ病院協会のデータより)】
出典/Wachter RM:The State of Hospital Medicine in 2008.Med Clin North Am.2008 Mar;92(2):265-73,vii.
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 ホスピタリストの労働市場は売り手市場といわれており、今後もホスピタリストの需要は増加することが見込まれています(図1)[3]。その理由としては、アメリカにおけるプライマリケアの役割分担が変化してきたことと、ホスピタリストが生産性の高く、質のよい医療を提供しているという研究報告が増えていることが挙げられます。


ホスピタリストと一般内科医のキャリアパス

 ホスピタリストとプライマリケア医の役割分担を理解するには、一般内科医のキャリアパスを考えることが重要になるので、まずはこれについて説明します。

 アメリカの一般内科のレジデンシープログラムは3年で、それを修了すると、一般内科医として開業してプライマリケアに従事するか、サブスペシャリティーの分野(呼吸器内科、循環器内科など、◯◯内科と呼ばれる分野のことです)に進むかを選ぶことになります。

 この2つの道を選ぶレジデントの割合は、時代の影響を受けながら変化しています。1990年代にはマネジドケアの拡大に伴い、ゲートキーパーとしての役割を期待されたプライマリケア医(*注1)の養成数が増加しました。

 しかし、2000年代に入ると様子が変わり、プライマリケアを選ぶレジデントが減少し始めます。図2は、プライマリケアの落日を警告する執筆者がThe New England Journal of Medicine誌に発表した記事に示されていたもので、内科レジデンシー卒業生とその進路の割合を表しています[4]。

 サブスペシャルティー(紫のバー)が漸増していくのに対して、一般内科(プライマリケア)医(オレンジのバー)が減少していき、2002年からはホスピタリスト(緑のバー)が増えていく様子が分かるかと思います。しかし、この図を見て、プライマリケアの危機ととらえるのは早計です。

 2002年以降の一般内科医(オレンジのバー)とホスピタリスト(緑のバー)の総和を求めてみると、一般内科医とホスピタリストの合計数はほぼ一定で推移していることに気付いてもらえると思います。これはどういったことを意味しているのでしょうか?


【図2 進路としてプライマリケア医、内科サブスペシャリティ、ホスピタリストを選択した内科レジデンシー3年生の割合】
出典/Bodenheimer T:Primaty Care―Will It Survive?.N Engl J Med.2006 Aug 31;355(9):861-4.
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*注1 ゲートキーパーとしてのプライマリケア医:本文にあるマネジドケアとは、医療費の削減、医療の質の向上を目的に、アメリカで導入された医療保険。保険加入者(患者)は、加入している保険によって指定された医療機関を受診しなければならない。特定分野の専門医を受診するに当たっては、多くの場合でプライマリケア医の紹介を受ける必要がある。すなわち、プライマリケア医には、不必要な専門医への紹介や検査を減らすためのゲートキーパーとしての役割が期待された。


ホスピタリストとプライマリケア医との役割分担

 アメリカの開業医は、外来患者と入院患者の両方の診療に従事することができます。プライマリケア医は、多くの時間をクリニックでの外来診察に費やすのですが、自分のかかりつけ患者が入院する必要がある場合には、あらかじめベッドを使うことができるように契約しておいた(privilegeを持っている)病院へ患者を入院させ、入院後も継続して治療を行なってきました。

 ところが、こうした状況に変化が起こりました。1982年、連邦政府は65歳以上を対象とするメディケアという公的保険において、病院に対する診療報酬の支払い(reimbursement)を、出来高払い(fee for service)ではなく、prospective payment systemという、いわゆる包括払い方式に切り替えました。これは、患者の疾患、手技、年齢などによって定まるDRG (diagnosis related group)に基づいて支払うもので、日本のDPC(Diagnosis Procedure Combination:診断群分類)と似たものだと考えてください。患者がDRGで定められた日数より長く入院すると病院は赤字になるので、病院は患者をできるだけ早く退院させようと努力し始めました。

 ところで、アメリカでは病院が医師の雇用主でない場合が多く、医師は病院とは別個に患者(の加入している保険会社)に診療報酬を請求します。医師の立場としては、軽症の患者を長期間入院させておく方が、経済的にも身体的にも楽なのです。そのため、DRGの導入は、医師に対して入院期間を短縮させるという圧力にはなりませんでした。

 しかし、時代を経てマネジドケアが浸透するにつれて、病院は保険会社などから、患者の入院日数をさらに短くするよう強い圧力を受けるようになります。事実、アメリカにおける平均入院日数は、1970年には7.8日、1980年には7.3日、1990年には6.4日であったのに、2007年には4.6日にまで短くなっています(図3)[5]。

【図3 入院患者の平均入院日数と退院患者数(1993〜2007)】
出典/Agency for Healthcare Research and Quality(Healthcare Cost and Utilization Project):HCUP FACTS AND FIGURES:STATISTICS ON HOSPITAL-BASED CARE IN THE UNITED STATES, 2007. 2009 Sep;11.
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 そのため病院側としては、病院から離れたクリニックから必要のつど一般内科医を呼び出すよりも、常に病棟にアクセスできる医師を求めるようになっていきました。当然の成り行きだと思います。

 一般内科医の立場からしても、クリニックと病院を掛け持ちして往復の移動時間を消費するよりも、クリニックのみで診察している方が多くの収入を得ることができます。また、急性期医療の技術は日進月歩で進んでいきますが、そのスピードに付いていくことを困難に思う一般内科医も、一定数はいたかと思います。

 こうした背景の下で、プライマリケア医は外来の診療に専従し、ホスピタリストは入院患者の診療に従事するという分業(division of labor)が成立したと考えられます。

 前掲の図2について「プライマリケアの危機ととらえるのは早計」と言いましたが、それは「サブスペシャルティーに進まない一般内科医にとって、1990年代には、外来と入院患者を両方診る一般内科医としての労働形態しかなかったが、2000年代に入ると、レジデンシー卒業後はホスピタリストとして入院患者の診療に従事し、しばらく年月がたったら外来診察に専従する一般内科医になることができるという、新しいキャリアパスが誕生した」と解釈することができるからです。

 次回は、ホスピタリストが提供する医療の質とはどの程度のものか、いくつかの論文を引用しながら紹介します。そして、彼らが病院の中でどのようにリーダーシップを発揮しているのか、解説したいと思います。

追記
 ミネソタにもようやく春がやって来ました。私の勤務する病院では、あと2カ月でレジデンシーを卒業する3年生がそわそわしていて、インターンシップが終わる1年生がげんなりしている様子が見受けられます。それでは皆様、ゴールデンウィークをお楽しみください。


≪まとめ≫

1) 1990〜2000年代にかけて、入院患者の診療に特化したホスピタリストという専門家が誕生した。
2) ホスピタリストの誕生は、マネジドケアの浸透や、常に病棟にいる医師を必要とする病院のニーズが背景にある。
3) ホスピタリストとプライマリケア医の間では、ホスピタリストが入院治療を担当し、プライマリケア医が外来治療を担当するという分業が進んだ。


【References】

[1] Wachter RM, Goldman L:The emerging role of "hospitalists" in the American health care system. N Engl J Med. 1996 Aug 15;335(7): 514-7.
[2] http://www.hospitalmedicine.org/
[3] Wachter RM:The State of Hospital Medicine in 2008.Med Clin North Am.2008 Mar;92(2):265-73,vii.
[4] Bodenheimer T:Primaty Care―Will It Survive?.N Engl J Med.2006 Aug 31;355(9):861-4.
http://content.nejm.org/cgi/content/full/355/9/861/
[5]Agency for Healthcare Research and Quality(Healthcare Cost and Utilization Project):HCUP FACTS AND FIGURES:STATISTICS ON HOSPITAL-BASED CARE IN THE UNITED STATES, 2007. 2009 Sep;11.

※ウェブサイトは2010年4月28日にアクセス確認。
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