2010年05月06日

歩く速さが高齢者の寿命を左右する

自治医科大学 学長 高久 史麿


KUROFUNetをご支援していただいている、日本医学会会長・東京大学名誉教授の高久文麿先生より、御寄稿がありましたので、配信いたします。記事は、月刊誌「安全と健康」第61巻 第2号 2010 にて掲載されたものです。 今月はフランスの研究者による研究を紹介する。彼らは、65〜85歳の普通の生活をしている健康な男女3,208人を対象にして、歩く速さと生存率との関係を調べている。実際に研究を始めたのは1999年からで、2006年にその結果がまとめられている。

高齢者の歩行速度は、6mの距離の廊下を何秒間で歩いたか、特定の装置を使って正確に測定している。参加者には、まず6mを普通の歩き方で歩いてもらい、その後、その人にとって最高の歩行速度で同じ距離を歩いてもらう。もちろん走ることは禁じられている。上記の3,208人を平均5.1年間追跡したところ、その中の209人が死亡している。その内訳は99人ががん、59人が心血管障害、51人がその他の原因であった。そこで歩行速度と死亡との関係を調べてみると、速く歩いた人の方が遅く歩いた人よりも統計的に有意に死亡率が低かったという結果が得られている1)。しかも、この関係は心血管障害のために死亡した人の場合により明らかで、遅く歩いた人は速く歩いた人よりも3倍多く死亡している。一方、がんによる死亡と歩行速度には相関関係がなかったとのことである。

この研究の結果に関しては、「心血管系に異常がある人は歩くのが遅く、当然早く死亡するのではないか」という指摘もあろう。しかし、研究の対象となった人たちは、当時普通の生活を送っていた健康な人たちである。したがって、上述の研究の結果から、少なくとも一見健康そうに見える人でも歩き方の遅い人については、その時点で心血管系に異常がないかを調べる必要があるということは言えるであろう。

この問題に関連のあるもう一つの研究がデンマークの研究者によって報告されている2)。彼らは合計2,816人の男女を対象にして、1987〜1988年の間に、身長、体重、大腿の太さ、腰・胴まわりの太さ等を測定し、10年後の心血管障害による死亡または12.5年後のすべての理由による死亡との関係を調べている。その結果、心血管障害を含めてすべての死亡率と一番関係が深かったのは、大腿の太さで、大腿の太さが60cm以下の人は血圧、体の肥満度、血中脂質濃度等に関係なく早く死亡するという結果を得ている。大腿が細いということは、大腿の筋肉が少ないことを意味しており、上述のフランスの研究者たちによる研究結果との間に関連があるかもしれない。ただ、この2つの研究は、いずれも欧米人を対象にしたものであり、彼らは日本人よりも心血管障害による死亡率が高いことに留意しておく必要があるであろう。
1)Dumurgier, J. et al. Brit.Med.J. 339, b4460, 2009

2)Heitmann, B.L. & Frederiksen, P. Brit.Med.J. 339, b3292, 2009


※著者プロフィール
1954年東京大学医学部卒。72年自治医科大学教授、82年東京大学医学部教授、88年同医学部長、95年東京大学名誉教授、96年自治医科大学学長、04年日本医学会会長。医療の質・安全学会理事長
posted by kurofunet at 20:56 | TrackBack(0) | 高久通信
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