2010年08月24日

分かりやすいプレゼンの7つの鉄則

市瀬 史
ハーバード大学医学部アソシエイト・プロフェッサー/
マサチューセッツ総合病院麻酔集中治療科・麻酔医


先日、日本で開催された2つの医学・生物学関係の学会に出る機会がありました。1つは日本の学会でほとんどの発表は日本語でしたが、もう1つは国際学会で英語を使って発表が行われていました。どちらの学会でも、それなりに学問的に興味深い発表があり、勉強になることもありました。しかし、発表者によって発表の巧拙に大きな差があるのには、いつものことながら驚かされました。
 今回、1つ気付いたのは、プレゼンテーションの上手い下手は、日本語や英語の上手い下手以前の問題であるということです。日本語のスライドを使って日本語で話しながら、言いたいことがさっぱり分からないプレゼンもあれば、日本人が英語のスライドを使って、たどたどしい英語で話しながらも、非常に分かりやすいというプレゼンもありました。外国人の招待講演者でも、非常に高度な内容をとても分かりやすく話す人もいれば、その逆の残念な例も数多く見受けられました。

 かく言う私も、以前は人前でのプレゼンが大の苦手で、学会の前はいつも極度に緊張していました。特に英語で話さなければならない場合は、前日に寝ないで練習した挙げ句、演台に上がった途端に頭の中が真っ白になって大失敗した苦い経験も数え切れません。大量の情報を詰め込み過ぎて、聞いていた人から「さっぱり分からん」と言われたこともあります。

 私の研究上のメンターも、プレゼンが得意な人ではありませんでした。アメリカ人だからといって、皆がオバマ大統領のように話せるわけではありません。しかし、分かりやすいプレゼンの仕方を身に着けることは、準備と練習次第で誰にでもできます。私は、その準備と練習の仕方をメンターから学びました。「プレゼンが上手い」と自惚れているわけではありませんが、数多くの失敗の経験から、分かりやすくプレゼンするために気を付けていることがあります。今回はそのいくつかを紹介します。


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鉄則その一:すべてのプレゼンテーションは面接試験と考える
 医師の世界に限らず、仕事上で行うプレゼンの究極の目的とは、そもそも何でしょうか? 一言で言えば、聞いている人たちに「あなたと一緒に仕事をしてみたい」と思わせることです。

 これには2つの意味合いがあります。聞いている人が「あなたと一緒に仕事をしてみたい」と思うということは、あなたの言わんとすることがよく理解されたということです。何を言いたいのか分からない人と一緒に仕事をしたいと思う人はいません。つまらなそうに話している人に対しても同様です。「自分がやった仕事の内容を人に分からせたい!」という情熱が伝わってくるようなプレゼンに人は引かれるのです。

 もっと直接的な意味合いとして、聴衆の中にはあなたの将来の上司や同僚がいる可能性が常にあります。特に人材の流動が激しいアメリカではそういったことは日常茶飯事です。私がある学会で研究発表をしたとき、質問に立った人がセッション終了後にやって来て、「もし職を探しているようなら、ぜひ連絡してくれ」と名刺を渡されたことがあります。これは私が今までにもらった中でも最大の褒め言葉の一つです。「聴衆の中に将来の上司や同僚がいる」と常に意識することで、「最高に分かりやすいプレゼンをしよう」という気持ちになれると私は考えています。


鉄則その二:「一生懸命に仕事をしたこと」を伝える
 「自分はこんなに頭がよいのだ。話が分からないのなら、お前たちのせいだ」と言わんばかりの分かりにくい話をする人がいます。私の大学時代の教授の中にも、こういう人たちがいました。しかし、それでコミュニケーションが成立しないのであれば、双方にとって時間の無駄でしかありません。プレゼンなどしない方がましです。

 プレゼンは、あなたの言いたいことを聴衆に理解してもらうために行うものです。ただし、一方的に話すことは無意味です。聴衆にはあなたの話を聞く義務はないのです。仮に講演会場に来て座っていても、あなたの話に興味を持てなければ、聴衆の注意は離れてしまいます。ですから、聴衆の注意をつかんで離さず、引き回す必要があります。

 そのために重要なのは、結果の良し悪しにかかわらず、あなたがどんなに一生懸命仕事をしたかを伝えることです。もちろん、言葉に出したりスライドに記載したりする必要はありませんが、こうした気持ちを行間に込めることで、分かりやすい話をする強い動機付けになります。ろくに説明もしないで知識や情報を詰め込むのは逆効果です。


鉄則その三:話さないことはスライドに記載しない(=記載したことはすべて話す)
 非常に細かく図や文章を散りばめたスライドを映して、ろくに説明もせず、5秒ぐらいで次のスライドに移ってしまうようなプレゼンを見たことがあると思います。そういうスライドが1枚でもあると、その瞬間に聴衆はあなたの話に対する興味を失ってしまいます。一度失った聴衆の興味を再び引き付けることは、どんなに美しいスライドを並べても不可能です。

 最前列に座っていてもほとんど字が読めないような表を雑誌やウェブサイトからコピーしてきて、「この列だけ見てください」というような台詞を堂々と言う人もいます。しかし、表のほかの部分に一瞬でも気を取られた聴衆は、もう話に付いていけなくなるのです。

 話さない内容を記載したスライドを見せることは、プレゼンの場で絶対にやってはならないタブーの1つなのですが、かなりの数の人がこれを侵しているのには驚きます。鉄則その二とも関連しますが、「俺はこんなに物知りだぞ」というメッセージだけが伝わって、聴衆は置いてけぼりになってしまいます。話さないことはスライドに記載しない、逆に記載したことはすべて話す。この鉄則を守るだけでもプレゼンの分かりやすさは格段に向上するのですが…。


鉄則その四:スライドに記載した言葉や数字はそのままの順序で話す
 論文を書くとき、読む人の立場になって書くのが重要であるように、プレゼンをするときは聴衆の立場になって話すことが何よりも重要です。その意味で、スライドに記載してあることは、その通りの順序で話す必要があります。違う順序で話すと、聞き手にとって非常に理解しにくくなります。スライドのあちらこちらにジャンプしながら話したりするのはもってのほかです。


鉄則その五:スライドの枚数と文字数を制限する
 一般的な学会における研究発表などでは、発表時間が10分、質疑応答の時間が5分程度です。この場合、スライドの数は10〜12枚が限界です。文字スライドの場合は最大でも7行程度までに制限する必要があります。私たちは聖徳太子ではありませんから、視覚と聴覚からの情報を与えられて10分間で理解できる量には自ずと制限があります。この鉄則も聞く人の立場に立てば当たり前のことなのですが、逸脱したプレゼンが数多く見受けられます。

 「情報量が多過ぎてよく分からない」という批判をすると、「発表時間が短過ぎるのが悪い。自分は悪くない」と開き直る人もいますが、これでは本末転倒です。また、何とか早口ですべての情報を話しきろうとする人もいますが、これも聴衆を無視した行為です。


鉄則その六:発表は質疑応答のためにある
 「口頭発表の意義の半分は質疑応答にある」と言っても過言ではないと思います。よく言われることですが、想定される質問に対する答えとバックアップスライドを準備しておくのは、発表者の当然の責務です。

 質問されたら、質問を紙に書き取り、復唱してから答えましょう。聞かれたことだけを簡潔に答えるようにして、なるべく数多くの質問者に質問の機会が与えられるように配慮します。

 言いわけがましいことを言う必要はありません。発表者がしっかりと質疑応答できた発表は記憶に残りますが、しどろもどろの質疑応答は発表の内容まで台無しにしてしまいます。また、質疑応答が終わってもすぐに会場を去らず、個別の質問に答えることも重要です。


鉄則その七:信頼できる人の前での練習は100回の自主練に勝る
 最後に、最も重要なのはプレゼン前に必ず練習をしておくことです。特に、忌憚のない意見を述べてくれる、信頼できる指導者の前で一度でも練習しておくことは、1人で部屋にこもって100回練習するよりも価値があります。

 この場合、遠慮なく批判してくれる指導者を見付けることが重要です。どんなに偉い先生でも、1回聞いただけで「よくできてる」としか言ってくれない人は、あなたのことを本当に考えてくれているとは言えません。どんなプレゼンにも改善すべき余地が必ずあるからです。重要なプレゼンであれば、質疑応答も含めて少なくとも10回程度は練習するようにしましょう。

 ほかにもパワーポイントの効果的な使い方、話すときに気を付けることなど、技術的なポイントは様々ありますが、それはまた別の機会に譲りたいと思います。今回紹介した7つの鉄則を守るだけでも、プレゼンの分かりやすさは格段に改善されます。ぜひ、次のプレゼンの機会に試してみてください。
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