2011年06月29日

採用されるPersonal Statementはここが違う!

岡野龍介
インディアナ大学病院麻酔科アシスタント・プロフェッサー

 KUROFUNetで記事を書くようになって、アメリカへの臨床留学の相談をよく受けるようになりました。その中でも多いのが、留学を志す人が苦しむPersonal Statementの書き方についてです。今回は、アメリカのレジデンシーのプログラムディレクターの目に留まる、魅力あるPersonal Statementの書き方についてお話ししようと思います。

 Personal Statementとは、応募者が志望先に提出する、自分を売り込む小論文のことです。アメリカでは、学校の受験や就職の応募のたびにPersonal Statementと知人からの複数の紹介状を要求されるのが習わしで、レジデンシープログラムの応募もこのスタイルを踏襲しています。日本の大学受験の小論文のように、特にテーマが決まっているわけでも、文字数に制限があるわけでもありません。

自分の考えを1行で書き出す
 レジデンシーの応募シーズンになると、プログラムディレクターの元には毎週たくさんの願書が届きます。皆が医学部出身で、同じ専門科を目指し、同じような人生の目標を持っているのですから、Personal Statementの内容はおのずと似通ったものになりがちです。何十人ものPersonal Statementに目を通して半ばうんざりしているプログラムディレクターに最後まで一気に読み通してもらうためには、エッセイでありながら科学論文のように明快でテンポの速い、論理的な文章の展開が必要です。

 論理の展開を見失わないようにしつつPersonal Statementのような長文をつづるには、まず話の骨格を作り、後で肉付けしていく方法を採ります。具体的には、次に挙げる項目が話のバックボーンになります。

 (1)つかみ
 (2)自分の紹介
 (3)なぜ、この専門科を志望しているのか
 (4)なぜ、アメリカに臨床留学をしたいのか
 (5)なぜ、自分が採用されなければならないのか
 (6)レジデンシー修了後〜長期的な目標
 (7)家族のサポート


 まず、「つかみ」を除く各項目の内容について、1行で自分の考えを書き出します。この「1行で」というのが肝心で、各項目について自分が最も言いたいことを簡明に書き記し、自分の頭の中ではっきりとさせる目的があります。

 次に、それぞれ「1行で」書かれた自分の考えを、1〜3パラグラフずつ費やして文章に書き起こしていきます。必ずしも最初から英語で書く必要はありません。最初から最後まで日本語で書き上げてから後で一気に英訳しても、立派なPersonal Statementにはなります。

1.「つかみ」
 印象的な書き出しは、読み手の読む意欲を喚起し、多くの似通ったPersonal Statementの中から自分のものを目立たせるのに役に立ちます。とはいえ、文筆を生業とする者ならいざ知らず、人生でせいぜい1〜2回しか書かない Personal Statementを、いきなり上手なつかみから始めることができる人はあまりいません。

 まずは、つかみ部分は飛ばして他の部分を書き上げ、その後で全文を通して最も印象深いと思われる項目を、パラグラフを入れ替えて意図的に先頭に持ってくるようにします。このとき、書かれている内容を象徴するような具体的なエピソードを交えることで、ドラマチックに演出することが可能になります。

 パラグラフの入れ替えによって話の筋が混乱するのを防ぐために、各々のパラグラフはそれ自体である程度の完結性を持たせるように心がけておきます。すなわち、「パラグラフのモジュール化」です。注意深くモジュール化されたパラグラフは、つかみのために大胆に先頭に移動させても話の筋を混乱させることがありません。それでいて、意図的に時系列を乱した話はテーマを際立たせるのに役立ちます。


【パラグラフの入れ替えによる効果の例】

■原文

見事に手入れされた、緑色の絨毯のような芝生にポツポツと生えるタンポポの黄色い花。
私はいまいましい思いで芝生に這いつくばってタンポポを抜きはじめた。
娘が私の後ろで声を上げた。「かわいい! タンポポのわたぼうしだ!」
私は後ろを振り返ると娘に向かって叫んだ。「触ったらだめだ! タンポポは雑草……」
娘は大きくほっぺたを膨らませてわたぼうしを吹いた。
青い空と緑の芝生に向かって無数のタンポポの種が飛んでいくのを、私はただ眺めていた。

■パラグラフ入れ替え後

青い空と緑の芝生に向かって無数のタンポポの種が飛んでいくのを、私はただ眺めていた。

見事に手入れされた、緑色の絨毯のような芝生にポツポツと生えるタンポポの黄色い花。
私はいまいましい思いで芝生に這いつくばってタンポポを抜きはじめた。
娘が私の後ろで声を上げた。「かわいい! タンポポのわたぼうしだ!」
私は後ろを振り返ると娘に向かって叫んだ。「触ったらだめだ! タンポポは雑草……」
娘は大きくほっぺたを膨らませてわたぼうしを吹いた。

(David Matz: Chicken Soup for the Gardener's Soul/http://www.plantea.com/dandelions.htmを筆者抄訳・一部改変)


 もちろん、前のパラグラフを受けて次のパラグラフの論理が展開するために、順序を入れ替えることができない場合もありますから、そういうときには、複数のパラグラフが数珠つなぎにひもでつながったような結合状態をイメージし、一かたまりで管理するようにします。

 なお、Personal Statementの書き出しには、“Dear Program Director”は使わず、“Dear Dr. Albert Einstein”というように、必ずプログラムディレクターの名前を調べて入れるようにすると好感を持たれます。どこの国でも同じですが、履歴書や Personal Statementを複数の応募先で使い回しているように感じられると、途端に機嫌が悪くなる選考者がいるのも事実です。

2.「自分の紹介」
 自分の生い立ち、育った家庭環境から医学部卒業までを1〜2パラグラフにまとめます。後の論理の展開にどうしても必要でない限り、「なぜ医師を志したか」は今さら書く必要はないと思います。応募者は全員医学部を既に卒業しているのですから、「なぜ当該専門科を志望しているのか」ということを次の項目で書けばよいでしょう。

 様々な人種が世界から集まり、貧富の差が激しいアメリカでは、生い立ちや育った家庭環境を、かなりはっきりと Personal Statementに記述します。自分の両親が社会的地位の高い職業に就いていたならば、そのことはぜひ記してください。医師や弁護士の家庭に生まれたことをあからさまにPersonal Statementに書くのは、日本人の感覚からすると、はしたないような気がしますが、アメリカでは良い家庭に育った事実をアピールすることは恥ずかしいことではありません。家庭でどれだけ愛情を受け、何を大切なものとして教えられて育ったかも述べるとよいでしょう。

3.「なぜ、この専門科を志望しているのか」
 ここから述べる3項目が、Personal Statementの核になります。「なぜ、この専門科を志望しているのか」「なぜ、アメリカに臨床留学をしたいのか」「なぜ、(他人ではなく)自分が採用されなければならないのか」―。これらの3項目は時として密接に関連していて、切り分けることが難しい場合もありますが、それでも最低限別々のパラグラフに独立させて、モジュール構造を保つように努めます。

 なぜ当該科を志望するようになったのか、誰にでもそれなりに動機があると思います。きっかけとなった実体験が当該科への情熱に強く結び付いていく様子を、具体例を挙げてうまく表現しなければなりません。採用された後も当該科への情熱を維持することができない可能性のあるレジデントは、高い確率でドロップアウトしたり、医療事故を起こしたり、専門医試験に不合格になったりします。どこのプログラムディレクターでも、そういうリスクを避けるために、候補者の当該科への情熱の強さを見ています。

4.「なぜ、アメリカに臨床留学をしたいのか」
 (日本にはない)何を求めてアメリカに臨床留学をするのかを書きます。システマティックな卒後教育制度、先端医療、幅広い人種構成と疾患群…、理由は人によって様々だと思います。それがどのように自分の理想とする医師像に影響するのかを書きます。私が実際のPersonal Statementに書いた内容を以下に紹介します。

  “My two years in America were defining for me. I learned English. I learned to play games fairly. I watched my father work as a cancer researcher. America holds a special attraction for me. I have always wanted to return to America to serve as a professional.”

5.「なぜ、自分が採用されなければならないのか」
 アメリカ人のレジデンシー応募者は、医学部の3年生(日本の医学部5年生に相当)になると、自分の希望の専門科を模索するために各科で臨床実習を始めます。魅力的なプログラムが見付かると、自分が在籍する医学部の大学病院に限らず、時には遠隔地のレジデンシープログラムで1週間〜1カ月の臨床実習に参加します。彼らは、正式なレジデント選考が始まる1年以上前から、既にプログラムディレクターに直接会い、実習を通して自分の技量と情熱を売り込んでいるのです。

 日本からの応募者は、このようなアメリカ人の応募者と比べると、顔の見えない、まさにどこの馬の骨とも分からない存在です。多くのプログラムディレクターが、日本が先進国であることは知っていても、医療のレベルとなるとよくは知らない、というのが実情です。他のアメリカ人応募者よりも、なぜ自分の方が優っているのかを、自分の性格や経歴など様々な角度からアピールしていきます。私が実際のPersonal Statementに書いた内容を以下に紹介します。

 “Along with my residents we have conducted over 12,600 cases since 1993. I have personally been responsible for more than 3,600 cases.”

 “I have also volunteered as a board-certified industrial physician.”

 “I am quite proficient at computers.”

 一口に経験と言っても、新卒の医師なら日本でもアメリカでも誰もがやっているような卒後研修の様子を単に羅列しても、自分の強みが伝わりません。日本での医学生時代や研修医時代を通して、自分がどのようなことを学び、何が人よりも抜きん出ているのかを具体的にアピールします。他人から「君は●●だね」と称賛された例を挙げます。

 人間の幅を感じさせる社会奉仕活動や、他業種からの転職の経歴がある人は、そのことも積極的に記述します。文章の中に“team player”“compassionate”“tough”といった、(実態はさておき)積極的なイメージを与えるような言葉(buzzword)をさり気なく忍ばせておくことも有効でしょう。

 私のように、卒後10年以上経っての応募の場合には、医師になってから時間が経っていることが有利にも不利にも働きます。経験豊富で即戦力となり、レジデントとしてドロップアウトしたり専門医試験に落ちたりするリスクは少ないとみなされる一方で、体力的に持つのか、純粋さや素直さを失っていて指導しにくいのではないか、という懸念も持たれます。自分のメリットは積極的に強調し、相手が不安に思うことについては先回りして打ち消すようなアピールの方法が望ましいでしょう。私が実際のPersonal Statementに書いた内容を以下に紹介します。ほとんどの日本の医師は働き過ぎですから、これを利用しない手はありません。

  “As for my physical stamina, I believe I am capable of handling the pressures of the residency lifestyle, since I presently work from 80-90 hours per week. I also take at least four in-house overnight calls a month with absolutely no post calls.”

6.「レジデンシー修了後〜長期的な目標」
 無事にレジデンシーを修了した暁には、アメリカに残って働きたいのか、フェローシップでさらに高いところを目指すのか、日本に帰って祖国の医療にさらに貢献するつもりなのか…。自分の夢を描きます。これも志望している専門科への情熱を測る尺度の一つとみなされます。

 「日本に帰るつもり」と書いたら不利になるでしょうか? アメリカ人から見れば、「ここまで頑張っておきながら帰国するなんてもったいない」とは感じるでしょうが、「帰国する予定」と書いたからといって、ただちに採用する気をなくすわけではなく、むしろ祖国のために頑張る人物として好感を持たれるでしょう。

7.「家族のサポート」
 家庭生活を大切にするアメリカ人は、Personal Statementに家族からのサポートがあることをよく書いています。ここまで述べてきた「仕事ができる自分」とは対照的に、今度は人間的な温かみを見せる場面です。

 結婚しているなら夫や妻のこと、結婚していないのなら婚約者などからの強いサポートがあることを書いて、大いなるチャレンジを受けて立つ準備ができていることを述べて締めくくります。「仕事人間」ではないことをアピールするために、余暇の過ごし方について書く人もいます。

仕上げにネイティブの校正を
 書き上げた文章は、文書作成ソフトのスペルチェックをかけた後、3人以上のネイティブスピーカーに校正してもらいます。その際、文法チェックだけでなく、修辞法を用いて文章表現をもっと「リッチ」にしてもらうよう頼みます。文法的には間違っていなくても、アメリカの小学生が書いたような単調で平易な文章を読まされたら、採用する側は応募者の本当の実力を過小に低く見積もってしまうからです。

 レジデンシーに応募してくるアメリカ人は、大学受験、医学部受験、就職の面接などで、既にPersonal Statementを何度も書いて試験を突破してきたネイティブたちです。今回の手引きによってPersonal Statementというものの一般的な構成を知り、さらにはどのような内容がプログラムディレクターの興味を引くのかを知っていただけたと思います。日本人として競争相手に打ち勝ち、プログラムに採用される一助になればと思います。
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