2012年03月23日

「24時間勤務など、全く苦になりません!」

KUROFUNetとの出合いからアメリカのレジデンシーポジションを獲得

林 大地
ボストン大学放射線科リサーチインストラクター

 前回はイギリスの研修医マッチングについて書きましたが、今回は私がアメリカで体験したばかりのレジデンシー応募プロセスについてご紹介します。アメリカでは海外医学校卒業生(international medical graduate;IMG)としての挑戦であり、希望する放射線科レジデンシーのポジションを獲得するまでには大変な時間と労力を要しました。

 アメリカのレシデンシー制度では、USMLE(United States Medical Licensing Examination)で高得点をマークしてライバルを上回ることが希望通りのマッチングを成功させるための第一歩です。しかし、プログラムにこだわらず、とにかくポジションを得ようとするならば、実はプレマッチ(pre-match)という「わき道」も存在しています。

STEP1は223点、マッチ確率35%未満。さて、どうする?
 USMLEの勉強を始めたのは、渡米直後の2009年11月。2011年9月から始まるマッチングに参加する前提で、昼間はボストン大学放射線科でリサーチフェローとして勤務し、夜と週末はKaplanで受験勉強という日々を送りましたが、最も重要視されるSTEP1のスコアは223/95点でした。

 2009年度のマッチング統計[1]によれば、放射線科レジデンシーにマッチしたアメリカ医学校卒業生(US medical graduate;USG)のSTEP 1スコアは平均238点。IMGの場合、マッチした人の平均が235点、マッチしなかった人の平均が223点。また、スコアが223点でマッチする確率は35%未満でした。

 アメリカでの臨床経験が皆無であるのに加えてこの得点では、USGに人気の高い病院(都市部の大規模な大学病院など)に就職する道はほぼ閉ざされました。しかし、全米を幅広く探せば就職することは不可能ではない得点のように思えました。とはいえ、どういう戦略を取ればマッチの確率を高められるかは見当がつかず、しばらく悶々としていました。

 2011年2月に私の人生を大きく変える運命的な出来事がありました。このKUROFUNetの執筆者の一人、永松聡一郎先生との出会いです。きっかけは、同じく連載をされている大内啓先生が私を永松先生に紹介してくれたことでした。ミネソタ大学病院で内科レジデントおよびクリニカルフェローとしての勤務経験をお持ちの永松先生は、レジデンシー応募のノウハウを一から教えて下さいました。

 中でも印象に残ったのは、「IMGはプレマッチで採用されることが少なくない」という情報でした。プレマッチとは、3月の「マッチ・デー」にマッチングに基づいた就職先が発表される前の段階で、応募者と病院がお互いの同意の下で就職を決定してしまうことを指します。これはアメリカに特有のシステムで、イギリスや日本には存在しません(表1)。

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【表1 イギリスとアメリカにおける卒後研修マッチングの違い(※クリックして拡大)】

プレマッチ狙いの電撃戦で早期決着を目指す
 「マッチングで勝てそうにないなら、マッチング外で採用されればいい」。私は考え方をこう改め、プレマッチによる採用に照準を合わせることにしました。放射線科は全般的に競争率が高く、USGに人気のある大規模な大学病院では通常、プレマッチによる採用やIMGの雇用を行いません。しかし、仕事が忙しいことでUSGからは敬遠されがちな中小規模の市中病院は、即戦力と成り得る人材であれば、プレマッチもIMGもいとわないだろうと考えました。

 そこで、KUROFUNetの岡野龍介先生のアドバイス(「採用されるPersonal Statementはここが違う!」、2011.6.29)を参考にしてパーソナルステートメントを書き、「長時間労働をいとわない仕事熱心さ」をアピールすることにしました。日本の病院では宿直の翌日に休息時間(post call)なしで働くことは普通ですが、イギリスやアメリカではあり得ません。しかし、そういう働き方をできるだけの体力と精神力を持っていることをアピールすれば、平均的なUSGよりも雇う価値があるとプログラムディレクターに思ってもらえるだろうと考えたのです。

 応募に必要な推薦状は、アメリカ国内からはボストン大学放射線科の指導教授とチェアマン、加えて私の臨床医としての力量を証明してもらうために日本とイギリスでの研修中にお世話になった指導教授に書いてもらいました。できるだけ早く書類審査を行ってもらえるように、2011年9月1日(応募が可能になる初日)に応募手続きを完了させました(※1)。

 全米を対象に80のプログラムに応募したのですが、面接に呼んでくれた病院は3つでした。2009年度のデータ[1]によると、病院を3つしかランクしなかった場合にマッチする確率は35%しかなく、通常のマッチングならば、かなり心許ない数字です。しかし、プレマッチ狙いならば話は別。中小規模の病院をメーンに応募したことは結果的に間違っていなかったようです。

 面接に呼ばれた3つはいずれも市中病院で、ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外にあるドレクセル大学の系列病院、コネチカット州にあるイェール大学の系列病院およびコネチカット大学の系列病院でした(アメリカでは、レジデンシープログラムがある市中病院は近隣の大学と提携しており、研修プログラムの監督はレジデントの雇用主である病院と提携先の大学とが協力して行っています)。

 面接の日取りは、11〜1月までの中で希望日を選ぶことができました。“First Aid for the Match”[2]という書籍によると、自分のパフォーマンスが最高潮に達するのは面接シーズン半ば(12月後半〜1月前半)。その時期に一番行きたい病院の面接を入れるべきだそうです。しかし、このアドバイスはプレマッチによる早期決着を狙う私にとっては的外れです。私はできるだけ早い日付を狙って、11月2日、7日、10日と、一気に3病院の面接を予約しました。面接の直前には気合いを注入するため、また面接官に若々しさをアピールするために髪の毛を短く刈り上げました。

「君が他の応募者よりも優れている点は?」
 後に採用が決まった病院の面接当日―。なんと面接を受けるのは私を含めて4人全員がIMGでした。しかし、私以外はUSMLE STEP1で250点以上を取り、かつ海外(インドなど)の放射線科専門医資格保持者で、既にアメリカの病院でクリニカルフェローとしての勤務経験がある人たちでした(※2)。この病院の採用枠は4つ。他の面接日を含めると、私を含めて8人のIMGが面接に呼ばれたようでした。

 面接官から、「うちの病院はnight float(夜勤週間制度)がないから、昼間フルに働いた後で、続けて12時間の夜勤をやってもらうことになる(ただし、翌日はオフ)。USGはこれを嫌うが、君はどう?」と聞かれたので、「日本では36時間連続勤務を月に数回やっていました。翌日がオフになる24時間勤務など全く苦になりません」と力強く答えたところ、面接官は納得顔でうなずいてくれました。

 「君が他の応募者よりも優れている点は何か?」という問いには、こう答えました。「私はイギリスで1年半、日本で2年半、臨床医としての勤務経験があり、放射線科を含めてほぼ全ての科をローテーションしました。そのため、各科の医師がどういう気持ちで画像検査をオーダーしているかが分かります。この経験を生かし、私は読影する際に必ずその患者を担当している医師の立場になって画像所見を読みます。なぜなら、放射線科医の仕事は単に画像を見ることではなく、画像を通して患者を診ることだからです」

 自信たっぷりに答えたところで、面接官が「That’s very good! 今、君が言ったことを、われわれ画像診断専門医は常に念頭に置いて仕事しているんだ。これまでに何百人もの応募者を面接してきたけれど、そんなことを言ったのは君が初めてだ!」と笑顔で言ってくれました。

「うちに来たら退屈しないか、心配だよ」
 訪れた3つの病院の面接で、共通して言われたことが一つありました。「大きな大学病院みたいにラボで研究活動をする機会は、ここではほぼ皆無だ。君は今、ボストン大学で素晴らしい研究業績を挙げているようだが、うちに来たら臨床の仕事しかできないから、退屈してしまわないか心配だよ」

 面接官にこうした懸念があると、不採用になる可能性が高くなります。「退屈するようなことは一切ありません。勉強することはたくさんあるし、研修期間中は臨床業務に専念することが肝要だと承知しています」。こう答えましたが、面接官たちは必ずしも納得していないようでした。

 これはまずいと思い、帰宅後すぐに彼ら宛にメールを書きました。面接招待に対するお礼に加え、面接時に明らかになった面接官たちの懸念を払拭しておこうと思い、「臨床研修に専念したいので、臨床業務が忙しい市中病院での研修は望むところです」と、改めてアピールしました。そして最後に、“I am strongly interested in a pre-match offer.”と、プレマッチによる採用希望を明確に述べました。

 3つの病院のうち、最初に来たプレマッチオファーを受諾することに決めていたのですが、全ての面接を終えた翌週、イェール大学系列病院のプログラムディレクターからの電話でプレマッチによる採用をオファーされ、即諾しました。

 こうして私はアメリカでレジデンシーポジションを獲得することができましたが、これはひとえにKUROFUNetとの出合いと永松先生のアドバイスがあったからだと確信しています。アメリカでのレジデンシーを志す読者の方がいらっしゃれば、KUROFUNetを含めて各種情報源に目を通し、万全のアプリケーション(応募書類)を作成することをお勧めします。

 USMLEの得点でライバルを上回れなければ、受け身でいては勝てません。応募先を絞り込み、プレマッチでの採用を狙うのも一つの方法だと思います。自分がUSGや他のIMGよりも優れている点を積極的にアピールすれば、勝機を見出せると思います。

※1 プレマッチを狙う場合でも、応募は全国共通のシステムを通じて行います。また、マッチングにも登録する必要があり、プレマッチのオファーを受諾し、病院との正式契約が済んでからマッチング登録を外すという手順になります。

※2 アメリカ以外で放射線科専門医の資格を取得していれば、アメリカでレジデンシー・トレーニングをしなくてもクリニカルフェローとして働くことができます。この場合、同じ病院でフェローとして4年間働くと、アメリカの放射線科専門医試験を受ける資格が与えられます。これを“alternative pathway”と呼びます。
 しかし、最近の傾向として、この方法で専門医資格を取得するのは難しくなってきているようです。面接で知り合ったインド人のフェローによると、ここ数年、1年契約しかしてもらえない場合が増えてきて、同じ病院でフェローを4年間続けることは極めて困難になったそうです。そのため、彼らのようなフェロー経験者であっても、専門医資格を取るにはレジデンシープログラムを修了せざるを得なくなったのです。

【References】
1)National Resident Matching Program(NRMP), Association of American Medical Colleges(AAMC): Charting Outcomes in the Match―Characteristics of Applicants Who Matched to Their Preferred Specialty in the 2009 Main Residency Match.
http://www.nrmp.org/data/chartingoutcomes2009v3.pdf
2)Tao Le, et al: First Aid for the Match, 5th ed., McGraw-Hill Medical, 2010.
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