2012年12月13日

「夫の求めに応じられない」56歳女性への対応は?

オーストラリアGPからの挑戦状(2)解答編

小林孝子
ビーンリー・ロード・メディカルセンターGPフェロー

 前回の「オーストラリアGPからの挑戦状(2)」の解答編を始めます。まずは設問から振り返ってみましょう。

 初診の56歳女性。この半年ほど、性欲がさっぱりないと訴える。夫(58歳)が求めて来ても、応じられない。それを夫からとがめられ、とてもつらく、何とかしたい。セクシーなビデオを観て気分を高めようとしても効果なし。うつ症状は認められず。閉経は50歳で、更年期症状は1〜2年あったが治まっている。子宮癌検診および乳癌検診で異常なし。1カ月前の血液検査でも異常なし。薬の服用もなし。

 性欲の減退以外に特段の症状はない。この問題を除いては夫婦仲良好。子どもは独立している。さて、次の対応は?

(1)中高年のセックスなんてそんなもの。歳なんだから、それが当たり前。旦那さんにも納得してもらって、あきらめるように言って帰す。
(2)性交痛の有無を聞いて、もし痛いようなら、潤滑剤や外用エストロゲン製剤を試してみる。
(3)ストレスの有無やうつ病のチェックをし、もう一度血液検査をして、全身状態のチェックをするように勧める。ストレスやうつ病は性欲減退の主な原因となるため、必要なら抗うつ薬を処方する。
(4)血中のテストステロン値をチェック。もし低かったら、外用テストステロン製剤を試してみる。
(5)セックスカウンセラーにかかることを勧める。

 このケースにおけるマネジメントとしては(2)(4)が考えられ、それでも駄目だったら(5)というのが妥当でしょう。

診察を通して、どこまで深刻な思いをくみ取れるか
 閉経以後に起こる性欲減退は、まれなことではありません。多くの人が「歳なんだから」「夫婦として長く連れ添ってきて、何をいまさら」などと言って、夫婦共々加齢のプロセスとして受け入れていきます。しかし、彼女の場合は「なんとか夫を喜ばせてあげたい」という強い思いがありました。

 話をよく聞いて思いがどれほど深刻かを察することなく(1)のような対応を取ってしまうと、おそらく彼女はもう診察の場に戻っては来ないでしょう。もうすでに何人かの医師に相談したものの突き放され、わらにもすがる思いで相談に来たのかもしれません。

 50歳を過ぎて子どもも独立した。老後の不安もあるし、歳を取っていく不安もあるし、夫も若い頃よりカッコ良くないし…。抑うつ的になって、セックスに興味がなくなるのもままあることです。ただ、彼女にうつ症状は見られないし、夫との仲も良く、この問題以外のところではハッピーということなので、(3)のように、無理にうつやストレスを原因と考えて話を進めると怒ってしまうかもしれません。まして、「血液検査をしましょう」などと言えば、「前に一度やって何ともなかったのに、どうしてもう一度やらなければならないの!」と、怒りに拍車をかけることになりかねません。こうなると「この医師は私のことを分かってくれない」という印象を植え付ける結果になります。

 一般的に、オーストラリアの患者は、医師のアドバイスに納得しないときは自分の希望を優先します。それはそれで正しいのですが、「自分の言っていることは間違っているかも…」と自己反省することは、医師がよほどしっかりと説明しない限り、まずないと思います。

ホルモン製剤の使用に当たっては十分なカウンセリングが必要
 閉経後のセックスに関して最も多い問題は、やはり膣の乾き(dryness)です。エストロゲンがほとんどなくなったせいで膣が萎縮して乾き、性交痛が起こります。もし、彼女が性交痛のためセックスに興味がなくなったのなら、潤滑剤や外用エストロゲン製剤はよい方法だと思います。景人さん(※)のコメントのように、まずこれを試してみるのは妥当だと私も考えます。

 また、うつ病の簡単なスクリーニングをしてうつ病でないことを確認し、1カ月前の血液検査結果を見て貧血はないか、甲状腺機能と血清鉄の数値は正常かどうか確かめ、血中テストステロン値を測定して低いようなら、少量の外用テストステロン製剤を試すのはよい方法だと思います。日本では、男性のテストステロン投与に比べて、あまり行われていない方法かもしれませんが。

 外用テストステロン製剤には、声が太くなる、毛深くなる、毛が抜ける、吹き出物ができるなどの短期的な副作用があります。また、乳癌や虚血性心疾患の潜在的なリスクも指摘されています。さらに、長期的な安全性に関するデータがまだありません。その上、オーストラリアでは女性用の外用テストステロン製剤は保険適用となっておらず、費用がかさみ、手続きも面倒です。したがって、もし彼女がこの治療方法に興味を持つようであれば、十分なカウンセリングが必要です。

 ただ、この時点で、「これは病気ではなくて、皆が経験する人生の一つのプロセスだ」ということが大体は分かってきているもので、医師からの説明を聞いただけで「よく考えて、また来ます。原因が分かって安心しました」と、すっきりした表情で帰っていく方もいます。

 おさらいすると、閉経後のセックスの問題に対しては、一般的な説明をし、原因を挙げ、治療法と外用のエストロゲンまたはテストステロン製剤の副作用を理解させます。その際に、閉経後の性欲減退に関する患者用の簡単なインフォメーションシートなどを手渡せばパーフェクト。そこで、患者が気に入ったマネジメントを始めてみます。3〜4週間後に来てもらって様子を聞き、もしうまくいっていなければ専門家に相談――という流れになります。

 大切なのは、患者の訴えの深刻さを理解し、常に次の段階のオプションを用意しながら、状況に応じてマネジメントを提供していくことです。そうすれば、患者も安心が得られるでしょう。

※「日経メディカルオンライン」で公開された本記事について、同サイトのコメント機能を利用して読者のご意見を募りました。コメントを頂いた方のハンドルネームを記載しています。

【References】
1)Lesley Yee,et al:Female sexual dysfunction, How to Treat(pull-out section),2012.
http://www.australiandoctor.com.au/cmspages/getfile.aspx?guid=59fa4f0d-ab13-4fa6-9d44-f65e13b4976d
2)Australasian Menopause Society :Low Libido and Testosterone Therapy.
3)Lawley Pharmaceuticals:Hormone Solutions.
http://www.lawleypharm.com.au/japanese.html
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