2013年01月23日

医療者も当然、銃を撃つ

岡野龍介
インディアナ大学病院麻酔科アシスタント・プロフェッサー

 銃の乱射による無差別殺人事件がまた起こってしまいました。2012年12月14日朝、米コネチカット州ニュータウンにあるサンディフック小学校で若い男が銃を乱射し、5〜10歳の児童20人と、校長を含む職員6人が死亡した事件は、まだ皆さんの記憶にも新しいと思います。容疑者は現場で自殺してしまい、犯行の動機は不明のままです。

オバマ大統領は「胸が張り裂ける思い」と言うが
 過去に何度も起こった銃乱射事件の中でも、さすがに小学校で児童が一度に何十人も殺された例はありません。銃による殺人事件のニュースには慣れっこになっているアメリカでも、驚きと深い悲しみが広がりました。アメリカでは、銃による重大事件が起こるたびに、銃規制の問題が幾度となく取り沙汰されます。しかし、そのたびに全米ライフル協会(National Rifle Association;NRA)の強力なロビー活動や世論の強い抵抗が立ちはだかり、規制はなかなか進んでいませんでした。

 マスコミ報道では、今度ばかりはNRAも重い腰を上げて何らかの策を打つことを検討し始めたとか、長年銃規制には断固反対の姿勢を取ってきた議員が一転して規制に賛成し始めたとか伝えられています。オバマ大統領も演説で涙をぬぐうような仕草を見せながら“Our hearts are broken”(胸が張り裂ける思いだ)と述べ、再発防止に取り組む考えを表明しました。

「家に銃はあるか?」が問診の必須項目
 日本における犯罪発生率が他の先進国に比べて低いのは、貧富の差が少ないうえ、国民全体の教養レベル、引いては道徳観念が優れているためであるということに、疑いを挟む余地はありません。同様に、教養や道徳があり、真面目に仕事をしている善良なアメリカ市民にとっては、薬物汚染、強盗、殺人といった凶悪な社会問題は、同じアメリカ国内のことであっても縁遠いものです。

 ところが、このような善良で道徳的なアメリカ市民でも、銃の所持となると話は別。家庭に銃を置き、趣味で銃を買いそろえ、レジャーとして銃を撃つ人が非常に多いのが事実です。アメリカの家庭医の実に7割は、「家庭に銃があるかどうか」「銃は弾丸を抜いて安全な場所に保管してあるか」を問診で尋ねるようにしているといいます[1]。

 銃は、猛獣を撃退する山奥の農場主や盛り場をうろつく若者、ましてや犯罪者だけの特別なものではないのです。今やアメリカ国民の実に40〜60%が銃を所持し、国民1人に1丁以上は行き渡るほどの銃が全米にあるだろうと言われています。

医療者にとっても、“大人のたしなみ”?
 勤務先の手術室で周りの人たちに聞いて回ってみると、銃など持っていないし、撃ったこともないという人が多くいる中で、子どもの頃から銃のある家庭で育ち、今は大人の趣味・娯楽として銃を持っているという人も、結構な割合で存在することに驚きました。

麻酔科医A「この間、裏庭を野ウサギがうろついていたから、さっそく銃を取ってきて撃ち殺してやった。ウサギって、撃つと飛び上がるんだぞ」

看護師「夏休みには家族と一緒に、馬に乗って森でキツネ狩りよ」

麻酔科レジデント「中学生のときから、親父のハンティングについて行って、よく撃ってました。今は、拳銃と猟銃を家に持ってますよ」

麻酔科医B「銃規制? 寝言を言うんじゃないよ。銃の所持は憲法で保障された国民の権利だ。家の敷地に不法侵入する奴は容赦なく撃つ」

麻酔科医C「高校生の娘が射撃上手で、今度大会に出場するんだ。弾薬を買う費用がかさんで困る」

麻酔科医D「この写真は、この前、コレクションとして購入した旧日本軍の銃なんだ。ここに書いてある漢字は何ていう意味なのかな?」

 家に帰って、中学生の息子に尋ねると、こともあろうに「この間、ボーイスカウトのキャンプでライフルを撃ったよ。面白かった。これが空薬莢。え? パパは銃撃ったことないの?」と言われました(写真1)。無論、私自身は本物の銃には触れたこともありません。

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【写真1 息子が持ち帰ったライフルの空薬莢。空薬莢を郵便で送り付けるだけで脅迫行為になる日本では考えられません。】

自動車にある登録義務が銃にはない!
 「アメリカの歴史は銃と共に歩んできた」。つとに言い古された言葉です。その言葉どおりに、銃はアメリカ社会の隅々にまで深く浸透しており、若い頃から銃に親しむ機会があります。特別に許可された者以外が銃を持つことを許されない社会で育った私たち日本人には、理解するのが難しい現実です。銃はアメリカの歴史であり、文化なのです。

 アメリカのほとんどの州では、自動車には登録義務を課しても、所有する銃の登録義務は課していません。また、学校や病院(写真2)などの特定の場所を除けば、明らかに銃を所持していると分かる状態で(つまり、鞄の中やジャケットの下に隠すことなく)公共の場で銃を携帯すること(open carry)も、ほとんどの州で合法です。そのうち12の州では、open carryのための届出も免許も必要ありません。「権利は行使しなければ失われる」として、open carryの拡大運動を続ける団体も存在します[2]。

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【写真2 病院入口にある「銃持ち込み禁止」の掲示。携帯電話禁止の掲示はなくても、これは全ての病院や学校の入口に必ず掲げてあります。】

 今回の惨事を受けて、ついにアメリカも本格的な銃規制への第一歩を踏み出すことになるのでしょうか? 私はそうはならないと見ています。実際、規制どころか、全米で銃が飛ぶように売れ始め、どこの銃砲店でも品切れが続出しています。事件をきっかけにした銃規制施行を警戒しての“駆け込み需要”です。

「銃が殺すのではなく、人が殺す」がアメリカの正論?
 オバマ大統領は事件から約1カ月たった2013年1月16日、「これ以上の問題先送りは許されない」として、銃購入要件の厳格化、殺傷能力の高い銃の販売禁止、銃の連邦登録制度、学校警備の強化、精神医療制度の充実などを盛り込んだ包括的銃規制強化策を発表しました。これらが実現すればアメリカでの銃規制は大きな前進となります。

 一方で、今回のように、大量の銃弾と、他人(母親)から奪った銃をいくつも持ち込んで至近距離から発砲するような事件の防止には、提案されているこれらの法規制はいずれも役に立たないことが指摘されています。「学校の校長室に銃の常備を義務付けるべきだ」「いっそ、銃を持った不審者が学校に侵入したら、逃げ隠れするのではなく、生徒が皆で突進して取り押さえるように指導すれば被害の拡大を防げる」。こんな暴論まで聞こえてきます。

 将来、日本のような銃の完全規制にアメリカが成功する日がくれば、銃による犯罪は劇的に減少するでしょう。しかし、国民の半数が所持している銃を国が完全に禁止することは、合衆国憲法を変えなければできない話です。現在のアメリカにおける銃の浸透度や親しみ具合を見ている限り、その実現はおそらく絶望的でしょう。

 よしんばそれが実現したとしても、法を守るのは善人だけで、悪人が銃を放棄することはないだろうと言われています。「銃が人を殺すのではない、人が人を殺すのだ」というNRAの言い分が妙に説得力を持って聞こえてくるのは、やはりアメリカに住んでいるからなのでしょうか。

【References】
1)Palfrey JS,Palfrey S:Preventing Gun Deaths in Children.N Engl J Med.2012 Dec 28.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1215606?query=health-policy-and-reform
2)OpenCarry.org―“A Right Unexercised is a Right Lost”
http://www.opencarry.org/
3)JAMES BARRON:Nation Reels After Gunman Massacres 20 Children at School in Connecticut.The New York Times.Dec 14,2012.
http://www.nytimes.com/2012/12/15/nyregion/shooting-reported-at-connecticut-elementary-school.html?pagewanted=all
4)Megan McArdle:The things that would work are impractical and unconstitutional.The things we can do won't work.The Daily Beast.Dec 17,2012.
http://www.thedailybeast.com/articles/2012/12/17/there-s-little-we-can-do-to-prevent-another-massacre.html
5)Mozaffarian D,Hemenway D,Ludwig DS:Curbing Gun Violence:Lessons From Public Health Successes.JAMA.2013 Jan 7:1-2.
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1556167
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