2013年02月07日

親族以外からの生体腎移植が広がるアメリカ

提嶋淳一郎
マイアミ大学外科腎膵移植部門准教授/ジャクソン記念病院外科医

 私は日本とアメリカで、人工透析や移植手術というかたちで腎不全患者とかかわってきました。この領域における両国間での違いを整理したうえで、最近アメリカで見かけるようになった、ちょっと特殊な生体腎ドナーのお話をしてみようと思います。

アメリカの腎移植件数は日本の10倍以上!
 日本は世界一の透析大国で、2011年末の時点で30万人を超える末期腎不全患者が血液透析または腹膜透析を受けています[1]。実に人口420人に1人の割合です。一方、人口が日本の約2.4倍のアメリカでは41万人の透析患者数ですから、人口750人に1人の割合です[2]。人口比にすると、日本にはアメリカの約1.8倍の透析患者がいることになります(図1)。

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【図1 日本とアメリカにおける慢性透析患者数 日本、アメリカともに慢性透析患者数は年々増加し、それぞれ40万人、30万人を突破しました。人口に対する割合では、日本の方がアメリカよりも多くの透析患者がいます。(図1、2は文献1〜5を参考に筆者作成)】

 これは日本人の方が腎臓病になりやすいからということではないようです。日本で新たに透析や腎移植を受ける患者は、毎年4万人弱。対して、アメリカでは毎年12万人近くになります。日本の透析患者数が多い理由の一つは、日本の透析患者の方が長生きするからです。日本では透析導入後5年の生存率は60%ほどであるのに対して、アメリカでは35%程度です。

 もっとも、日本における素晴らしい生存率だけが透析患者数の多さの理由ではありません。残念ながら、もう一つの理由として日米間の腎移植件数の違いがあります(図2)。

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【図2 日本とアメリカにおける年間腎移植件数 アメリカの献腎移植件数は、2003年以降、明らかに増加しました。高齢ドナー、心臓死ドナー、感染リスクの高いドナーからなど、以前は使われなかった臓器も、適応を選んで移植されるようになっています。生体腎移植数も増加が続いていましたが、最近は減少傾向。景気後退が一因と言われています。日本では臓器移植法の改正後、献腎移植数に大きな変化はありませんが、生体腎移植数が増加しています。】

 日本での腎移植件数は、近年増加傾向にあるものの年間1600件程度で[3、4]、アメリカでの1万7000件には遠く及びません[5]。結果として、日本では腎移植を受けることができずに透析療法を続けざるを得ない患者が多くいることになります。腎移植希望登録者数は日本が1万3000人で、アメリカは9万人。日本の透析患者の多くにとっては、国内の移植件数の少なさから移植医療が現実に選択可能なオプションとはなっていないので、腎移植希望登録すらしていないとも考えられます。

 アメリカでの腎移植件数の多さを見ると、多くの方は「献腎移植が多いからだろう」と思われるでしょう。事実、毎年約7000人が脳死下または心停止下で腎臓を提供しており、年間100人ほどしかドナーのいない日本の現状とは大きな差があります。2003年のOrgan Donation Breakthrough Collaborative [6]を機に、腎臓提供数が増加しました。

 そして、意外に思われるかもしれませんが、アメリカでは生体腎移植も盛んに行われており、年間6000人前後の方が生体腎ドナーとなっています。これは、日本での生体腎移植件数(年間1400件)の4倍以上になります。アメリカでの生体腎移植の多くは日本と同じく、親子、兄弟、夫婦などの親族間ですが[7]、友人や同僚など日本では行われていないドナーからの移植もよく見かけます。そして最近では、少し変わった生体ドナーも目にするようになりました。そんなドナーの1人、ジョンに登場してもらいましょう(※1)。

ジョンは誰とも知らぬ他人に腎臓を差し出した
 ジョンが夕方のニュース番組に目をやると、そこでは長年の透析療法からの合併症に苦しむ1人の女性、ナンシーが特集されていました。ナンシーは、血液透析のための血管アクセスも尽きて、腎移植以外の方法では生きていくことが困難な状態でした。残念ながら、ナンシーの周りには生体腎ドナーになれる人もなく、献腎移植を受けようにも、その待機期間はナンシーを死に追いやるのに十分長いものでした。ところが、ストーリーは思わぬ展開を見せます。ナンシーは今まで一度も会ったことのない他人から腎移植を受け、透析の苦痛から解放されたのです。何日たっても、ジョンの頭からこのストーリーが離れることはありませんでした。

 ジョンはニューヨークで成功した弁護士で、事務所を定年退職後にフロリダに移り住んで老後を過ごしていました。子どものいないジョンは、20年前に妻と別れてからは家族もなく、教会でのボランティア活動以外にあまり人とかかわることもなく、静かな余生を送っていました。そのジョンがこのストーリーを忘れられないのには、訳があったのです。ジョンの兄は重度の肺疾患で苦しみ、肺移植が必要だと言われていたのに、結局、移植を受けられることなく亡くなりました。ジョンは、自分が兄に何もできなかったことを悔やんでいたのです。

 ジョンはテレビ局に電話をかけ、どうすれば自分がナンシーのように腎臓病で苦しんでいる人を助けられるのか尋ねました。そこで番組担当者に教えてもらったのは、インターネット上にあるaltruistic donor(利他的ドナー)の登録サイトでした。altruistic donorは Good Samaritan donor(善きサマリア人のドナー)などとも呼ばれ、多くのドナーは特定の人を指定するのではなく、誰であっても病気に苦しんでいる人の役に立てるのならば、と臓器提供を申し出ます。自分の死後に臓器を提供するのではなく、生きているうちに臓器を提供しようというのです(※2)。

 その後、ジョンは移植センターでの医学的・精神学的なドナー評価を経て、腎不全に苦しむ患者を1人、透析療法から解放することになります。そして、ジョンの腎臓を移植された患者は、透析を続けていたときに比べて約10年間長生きできることになりました(移植後の予後に関する一般的なデータからですが)。腎提供から数年たった今でも、ジョンは自分のしたことを後悔してはいません。むしろ、自分の決断に誇りを持ち、晴々しい気持ちでいられます。また、亡くなった兄も喜んでくれているように思えるのです。

1施設内で完結する生体腎移植、透明性の確保も課題に
 altruistic donorからの提供腎は、ドナー交換腎移植(kidney paired donation)(※3)に組み入れられることもあり、従来の方法では移植を受けられなかったドナーとレシピエント間でも移植が可能となっています[9]。こうした特殊な臓器提供への対応は、社会的背景や特有の倫理観から、国・地域によって様々です。しかし、少なくともアメリカでは、生体腎ドナーの社会的適応を拡大して支援していく方向に向かっています。

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【生体腎ドナー手術。最近のドナー手術は多くの場合で内視鏡下に行われ、手術からの回復も早く、術後2〜3日で退院となります。】

 もちろん、臓器取引はどこの国でも禁止されていますが[10]、最近ではドナーの旅費などの経費をサポートするプログラムも整備されています[11]。献腎移植と生体腎移植が車の両輪となって、末期腎不全に苦しむ患者を救っているのです。

 献腎移植とは異なり、生体腎移植は1つの施設内でドナー手術とレシピエント手術が完結するので、ともすれば複数の人を巻き込んだ医療行為が密室で行われることになりかねません。基本的にはドナーとレシピエント間の合意に基づいて行われるものですが、健康なドナー当人にとっては不必要な身体的侵襲を加えなければならない行為である以上、ドナーの保護には最大限の配慮が必要です[12]。移植医療の透明性・公正性を確保するためには、国内で行われるすべての移植症例を適切に登録・管理し、個人情報の保護を図ったうえで、治療成績を含めた情報を公開する必要があるでしょう。

 次回は、アメリカで運用される医療情報の巨大なデータベースと、そこから公開された成績がどのように実際の医療現場で使われているのかについてお話ししようと思います。

※1 個人情報保護の観点から、固有名詞を含め、個人が特定できないように事例内容を一部改変しています。

※2 アメリカのOPTN/UNOS Ethic Committeeはaltruistic donorからの移植を倫理的規範に則った行為として認めていますが、「日本移植学会倫理指針」では生体ドナーの条件を親族(6親等内の血族、配偶者と3親等内の姻族)に限定し、親族以外からの移植に関しては症例ごとに当該医療機関の倫理委員会における承認と日本移植学会倫理委員会における審議を必要としています。

※3 ドナー・レシピエント間のABO式血液型不適合やリンパ球クロスマッチ陽性などがある場合に、親族間など従来の生体腎移植のドナーを交換することによってこれらの問題を解決して相互の移植を実現するものです。日本では、ABO式血液型不適合移植を行っている施設が多いので、必要性は低いかもしれません。親族以外からの移植として、倫理委員会による承認と移植学会による審議が必要とされています。アメリカでは、散発的に各地域独自に行われていましたが、最近は公的なものも含めて社会的なシステム整備が始まっています[8]。

【References】
1)日本透析医学会統計調査委員会:図説わが国の慢性透析療法の現況(2011年12月31日現在).
http://docs.jsdt.or.jp/overview/
2)UNITED STATES RENAL DATA SYSTEM:2012 Atlas of CKD&ESRD.
http://www.usrds.org/atlas.aspx
3)日本臓器移植ネットワーク:移植に関するデータ.
http://www.jotnw.or.jp/datafile/index.html
4)日本移植学会広報委員会:臓器移植ファクトブック2011.
http://www.asas.or.jp/jst/pdf/factbook/factbook2011.pdf
5)Health Resources and Services Administration/Organ Procurement and Transplantation Network:Data.
http://optn.transplant.hrsa.gov/data/
6)Shafer TJ,et al:Organ donation breakthrough collaborative:increasing organ donation through system redesign.Crit Care Nurse.2006 Apr;26(2):33-48.
http://ccn.aacnjournals.org/content/26/2/33.full.pdf
7)The U.S.Organ Procurement and Transplantation Network and the Scientific Registry of Transplant Recipients:Welcome to the 2010 OPTN/SRTR Annual Report:Transplant Data 2000-2009.
http://srtr.transplant.hrsa.gov/annual_reports/2010/
8)Health Resources and Services Administration/Organ Procurement and Transplantation Network:kidney paired donation pilot program.
http://optn.transplant.hrsa.gov/resources/KPDPP.asp
9)Roodnat JI,et al:Altruistic donor triggered domino-paired kidney donation for unsuccessful couples from the kidney-exchange program.Am J Transplant.2010 Apr;10(4):821-7.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1600-6143.2010.03034.x/full
10)国際移植学会:臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言,2008.
http://www.asas.or.jp/jst/pdf/20080805.pdf
11)National Living Donor Assistance Center
http://www.livingdonorassistance.org/
12)Ethics Committee of the Transplantation Society:The consensus statement of the Amsterdam Forum on the Care of the Live Kidney Donor.Transplantation.2004 Aug 27;78(4):491-2.
http://www.who.int/transplantation/publications/ConsensusStatementShort.pdf
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