2013年03月28日

「仕事と家庭の両立」はどこの国でも大変だけれど…

アメリカの女性医師・研究者の働き方

佐竹典子
カリフォルニア大学デービス校Cancer Center
小児血液腫瘍科アシスタントプロフェッサー

 皆さんお久しぶりです。今回は「アメリカで女性医師として働くこと」がテーマです。自身の経験から、そして周囲の女性医師または女性研究者を見て思ったことを書きたいと思います。

 私の所属するUC Davis病院小児科には74人の医師がいますが、そのうち女性は37人。レジデントは37人中30人が女性で、3年目に限ると15人全てが女性です。小児科という科の特性もあると思いますが、このように女性比率が高くなっています。ちなみに、うちの医学部生428人のうち、女性は238人です。

配偶者そろってのリクルートは普通に行われている
 こちらでは、medical school(4年間)の前に、undergraduate school(4年間)に行く必要があります。また、medical schoolへ進む前に、多くの学生がラボでアシスタントをしているため、医学生の平均年齢は日本に比べると数歳高くなっています。そのせいか、医学生またはレジデントのときに結婚する人がわりといます。私がレジデントだったときのクラスを振り返っても、今のレジデントを見ても、半数近くが既婚者または子持ちということは珍しくありません。

 アメリカでは共働きが当たり前なので、女性であれ男性であれ、既婚者も独身者と同じように働いています。家事を分担するのも当たり前です。私がインターン(レジデント1年目)を始めたときは、24時間以上続けて働いてはいけないという規則(※)ができる前で、4日に1度の当直では30時間以上寝ずに仕事をし、帰宅したらとにかく寝るという日々でした。今の当直制度はだいぶ楽になりましたが、それでもレジデントの生活はきついし、収入は低いので、配偶者の理解とサポートは欠かせません。

 アメリカでは、レジデントから、フェローシップ、常勤医と進むごとに、数年のサイクルで移動することも珍しくありません。その際、夫婦そろってのリクルートもごく普通に行われています。例えば、カップルでレジデントを希望する場合、科が異なっても同じ施設での採用が考慮されるようです。もちろん、両人に実力があってこその話ですが…。

 振り返ってみると、私も過去のjob interviewで、「夫は何をしているのか?」「あなたがうちへ来た場合、彼はここで仕事を見つけられるか?」という質問を必ず受けました。仕事の斡旋まではしてくれませんが、カップルとしての生活を考慮してくれていると思います。

産後休業は当然のこととして周囲は対応
 出産ばかりは、完全に男女平等というわけにはいきません。産後休業が6週間(こちらでは産前休業はありません)与えられ、さらに有給休暇をプラスしている人が多いようですが、レジデントであれ指導医であれ、出産を期に仕事を辞めた人を今まで見たことはありません。もちろん、仕事と育児の両立は簡単ではないようで、これは日本でも同じだと思います。

 レジデントであれば、休んだ分は復職してから取り戻すことになります。例えば6か月休んだら、同僚に比べて研修修了が6カ月遅れます。何人かの女性レジデントがこのように休業するのを見てきましたが、周囲は至って当然のこととして受け入れています。

 指導医の場合はケースバイケースだと思いますが、私の同僚(junior faculty)が産休を取ったときは、産休前に詰め込むかたちで当番(call)をさせられていました。いざ産休に入ったら、残りのスタッフでカバーです。

 研修・臨床・研究のどれを取っても家庭でできる仕事ではないので、どうしてもベビーシッターや保育所の助けを借りることになります。夫と分担して、子どもを保育所へ預けに行ったり、迎えに行ったり、子どもの具合が悪ければ休みを取ったりしています。こうなると、フルタイムの仕事と両立させるのが難しく、パートタイムに切り替える女性医師も多くいます。

 ちなみに、これは女性に限りませんが、子育ても終わり、定年を過ぎても第一線で働きたいという医師が、パートタイムやボランティアで外来に出てくることも珍しくありません。

学会の演者や座長は男女半々
 2012年12月、アメリカ血液学会議(American Society of Hematology;ASH)のannual meetingに参加してきましたが、そのとき見た感じでは、演者や座長は男女半々くらいだったと思います。身近なところでは、私のボスと研究のアドバイザーはどちらもPhDで、女性です。ボスは結婚していますが、子どもはいません。アドバイザーは私生活を全くうかがわせない人なので、家族のことは分かりません。2人とも大きなラボを持っていて、研究費も積極的に獲り、非常にアクティブで、ワーカホリックな研究者です。

 また、うちの小児科の新しいchairは女性でphysician scientistですが、臨床をこなしながらラボを持っています。彼女の夫はうちのPICUの医師で、彼女をリクルートするとき、一緒にリクルートされてきました。子どもは医学生です。このように、周りを見ても、学会を振り返ってみても、女性で成功している研究者がたくさんいることは励みになります。

 臨床と研究の両立は、男性でも女性でも大変です。特に、このところ続く財政難により、研究費を獲るのが非常に難しくなっています。臨床でも人が削られ、仕事をする環境が非常に厳しくなっています。そうした中でも共働きをサポートするシステムについては、アメリカのほうが日本に比べて整っているでしょう。例えば、ベビーシッターやフレキシブルな保育所は、おそらく日本より充実しています。また、産休をサポートするためのマンパワーも、少なくとも日本よりは確保されていると思います。

日本の医師の放言にあきれたことも
 アメリカは、少なくとも表向きは「平等」を謳う国です。どの職場や学校でも、スタッフや学生に対して、男女の平等、ethnicityの平等が求められます。今回の原稿を書くに当たって勤務先のスタッフの男女比を調べるために参照した資料には、女性 ●人、ヒスパニック ▲人などと、性別やethnic group別に今後のリクルートの目標が記載されています。こうした姿勢も、女性がより良く職場に受け入れられている理由の一つかもしれません。

 私が日本で医学部を卒業した当時は、「女性は受け入れない」と公言している外科の医局がありました。また、私たち学生に向かって「できる女性医師より、できない男性医師を採る」と言い放った医師もいて、あきれたことがあります。アメリカでこのようなことを言えば、差別発言としてたちまち問題となるでしょう。

 とはいえ、私が見る限り、アメリカで成功している女性も、すべてが自然にうまく進むというわけではなさそうです。それなりにいろいろなことを犠牲にし、かなりの努力をしていると思います。

※ 2003年にACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)が定めたduty hours regulationのこと。ただし、最大6時間まで、教育活動や既に受け持っている患者の継続的な診療を行ってもよい(すなわち、最大30時間まで連続して働くことができる)。
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