2013年04月11日

「“白い食べ物”で嘔吐する」3歳男児への対応は?

オーストラリアGPからの挑戦状(3)解答編

小林孝子
ビーンリー・ロード・メディカルセンターGPフェロー

 前回の「オーストラリアGPからの挑戦状(3)」の解答編を始めます。まずは設問から振り返ってみましょう。

 3歳の白人男児。頻繁な突発性嘔吐を主訴に受診。直近1カ月の間、最低でも1日1回は食後40分ぐらいして突発的な嘔吐を繰り返していた。食後しばらくして、ソファに横になり「気持ちが悪い」と言いながら大量嘔吐。両親は「特に“白い食べ物”(パン、ビスケット、パスタ、シリアル、クラッカー)を食べた後に嘔吐をするようだ」と言う。吐いた後はケロッとして、次の食事は何事もなかったように食べる。下痢も便秘もなし。吐物にも便にも血液が混じることはない。

・既往歴:小児喘息でステロイド吸入薬を服用。
・家族歴:父親は小児喘息だったが、現在はなし。
・所見:おおむね具合は良さそう。玩具で遊んでいる。顔面はやや蒼白。
・身長・体重:104cm、17kg(いずれも50パーセンタイル)。前回の測定(1カ月前)より1kg減。
・体温・脈拍:36.3℃、90/分
・身体所見・神経学的所見:特に異常なし。
・血液検査所見(単位やカッコ内の基準値は日本と多少異なる):末梢血;Hb 107g/L(105〜135)、MCV 74fL(70〜86)、MCH 23pg(23〜31)、WBC 4.7×109/L(6.0〜17.0)分画は正常、plt 266×109/L(150〜550)、生化学;Na 140mmol/L、K 4.0mmol/L、Cl 105mmol/L、Random Glucose 4.9mmol/L(3.0〜7.7)、Ca 2.41mmol/L、Alb 58g/L(60〜82)、コレステロール値正常、血清鉄5μmol/L(10〜33)、TIBC 68μmol/L(45〜70)、Ferritin 5μg/L(10〜140)、VitaminB12 129pmol/L(162〜811)、Folic acid 859nmol/L(545〜3370)、Transferrin saturation 7%(16〜50)
・腎機能・肝機能:正常。
・尿所見:蛋白(−)、ケトン(−)、糖(−)、WBC(−)、RBC(−)、培養(−)
・感染・炎症マーカー:CRP(−)、ESR(−)  

 さて、どのようなマネジメントが適切でしょうか?

(1)鉄欠乏性貧血のため消化管出血が考えられるので、小児消化器科に紹介。上部内視鏡および下部内視鏡検査を依頼する。
(2)貧血と嘔吐が認められる。小児癌をまず除外した上で、頭痛は訴えていないようだが、頭部と腹部のCTを依頼する。
(3)貧血があり、ビタミンB12は低値で、白血球も減少している。悪性貧血などの血液疾患が考えられるので、血液内科に紹介する。
(4)代謝性の疾患が疑われる。小児科に紹介して、後は専門家に任せる。
(5)鉄欠乏性貧血であり、ビタミンB12は低値を示している。“白い食べ物”で嘔吐するのは、グルテンの吸収障害が疑われる。tTG(トランスグルタミナーゼ抗体)などをチェックして、陽性なら無グルテン食を試してみる。
(6)選択肢(1)〜(5)に正答なし。

 解答は(5)。もっとも、この症例に対する私の対応は、“第六感”によるところも少々ありました。判断できなければ、小児科医に紹介するのでもいいでしょう。

白人に多いceliac diseaseとは
 男児の両親から「特に“白い食べ物”を食べた後に嘔吐をするようだ」という言葉があったことに加え、血液検査で鉄欠乏性貧血およびビタミンB12欠乏の所見が認められました。これらのことから、私は「もしかしたら」と思ってセリアック病(celiac diseaseまたはcoeliac disease;CD)[1、2]のスクリーニング検査をオーダーして、tTGなどをチェックしました。

 その結果は次の通り(カッコ内は基準値)。これを見て、私はクリーンヒットを打ったような気持ちでした。

 Anti Gliadin IgA >100(<20)
 Anti Gliadin IgG >100(<20)
 Anti Tissue Transglutaminase IgA >67(<4)

 CDは白人に比較的多い疾患です。グルテンに対する過敏症で、小腸からの吸収障害が起こります。典型的な症状として、グルテンを含んだものを食べると下痢を起こします。グルテンの吸収障害に伴い、鉄やビタミンの吸収障害の症状(鉄欠乏性貧血、ビタミンD欠乏症によるくる病、骨粗鬆症、ビタミンB12欠乏症)、疲労感、腹部膨満感なども起こり、不定愁訴として現れることもあります。

 特に小児では、発育の遅れ、慢性的な下痢、食欲不振、嘔吐などの症状から疑ってかからないと、見逃す恐れがあります。したがって、単なる吸収障害というより全身疾患として扱うのが、この疾患の診療の最近の傾向です。

 小児期にCDを発症すると、生涯無グルテン食となります。順調な成長を続けるために、栄養のバランスを図りつつ、合併症(1型糖尿病、悪性リンパ腫、くる病、鉄欠乏症、ビタミンB12欠乏症など)の予防やモニタリングなど、長期間にわたる関係者の協力が不可欠です。

確定診断は小腸の粘膜生検で
 最終的な診断は小腸からの粘膜生検によりますが、典型的な組織所見として、小腸の繊毛の萎縮、小腸上皮細胞内へのリンパ球浸潤があります。しかし、無グルテン食を始めると粘膜が正常に戻るため、理想的には診断がつくまで治療を開始してならないことになっています。

 とはいえ、両親の立場からすれば子どもを早く治したいので、すぐに無グルテン食を始めたい。オーストラリアでは、病院の小児科に紹介しても、すぐに診てもらえるとは限らないのです。

 私はすぐに小腸の粘膜生検を消化器内科へ依頼するとともに、無グルテン食を始めるよう両親に伝え、CDを専門とする栄養士を紹介しました。また、オーストラリアにあるCoeliac Australia [3]にコンタクトして、サポートと情報を求めるよう勧めました。数日後、男児の母親に尋ねたところ、無グルテン食が奏功して、すっかり元気になったと喜んでいました。

 この男児の場合は、生検の2週間前から、3食のうち1食は食パンなどのグルテンを摂取し、小腸の粘膜をCDの状態にしておくように病院の方から指示されました。内視鏡検査を受けたのは、私が紹介状を書いて3〜4カ月経ってから。

 「ほとんどの小腸の繊毛は萎縮し、上皮には著明なリンパ球の浸潤が見られる。臨床所見がCDに一致していれば、この組織所見はCDに合致する」。これが気になる生検の結果でした。後日届いた小児科医からの手紙には、「後はGPの方でケアをお願いします」と書かれていました。

【References】
1)The Children's Hospital at Westmead:Coeliac Disease.
http://kidshealth.schn.health.nsw.gov.au/fact-sheets/coeliac-disease
2)Anderson RP:Coeliac disease.Aust Fam Physician.2005 Apr;34(4):239-42.
http://www.racgp.org.au/afp/200504/200504anderson.pdf
3)Coeliac Australia.
http://www.coeliac.org.au/coeliac-disease/index.html
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