2013年05月17日

腹部腫瘍? と思ったら、妊娠していました

ベトナムでおめでた―妊娠編

寺川瑠奈
ファミリー・メディカル・プラクティス・ホーチミン小児科医

 ベトナムへ移って半年余りが過ぎた頃、私(瑠奈)は自分が太ってきたことを自覚しました。明らかに、以前よりお腹がぽっこりと…。

 「ベトナムの甘いコーヒーを毎日のように飲んで太っちゃったかな?」と思った私は、毎朝の腹筋とヨガトレーニングの実行を自分に課しました。いつもならこれで絞れるはずなのに、このときはぽっこりお腹にまったく変化なし。体調もいま一つ優れず、疲労感も抜けなかったので、おかしいと思って旦那さんに相談したところ、「腹部腫瘍だったら心配だ。エコーをしよう」ということになりました。

 すると、専門外の私でもはっきりと分かるくらいに大きく育った胎児が、こちらに手を振っているではないですか(そんな気がしただけですが…)。このときの驚きと自分たちのマヌケさは忘れられません。「女性を見たら妊娠を疑え」という鉄則は正しいですね。当時、時折の不正出血があったため、恥ずかしながら、よもや妊娠とは思っていなかったのです。

どこで産む? いろいろと考えてフランス系病院に
 先進国ではあまり悩むこともないでしょうが、ベトナムに住んでいて妊娠が判明すると、どこでどうやって出産するかをよく考えなければなりません。選択肢として考えられるのは、(1)外国人の出産を取り扱うベトナムの病院で出産、(2)日本で里帰り出産、(3)タイやシンガポールなど医療の進んだ近隣国で出産、(4)ベトナムのローカル病院で出産――です。

 ちなみに、(1)と(4)では言語面はもとより、医療のレベルや質、サービス、衛生面においてもかなり大きな開きがあります。ローカル病院で出産した友人によると、例えば待合室には人があふれすぎていて、床にゴザを敷いて妊婦さんがそこら中に寝転がっているそうです。また、自然にお産を待つなんて悠長なことができないため、何らかの理由を付けてほぼ確実に帝王切開となります。こうしたことから、ローカル病院での出産を選択するのは現実的には難しいことでした。

 タイでの出産は、サービスが非常に充実しているのに費用が手頃で魅力的だったものの、上の子どもは当時3歳前。一時的であれ、友達も保育園もないところへ連れていくことはためらわれました。かといって、日本へ里帰りすると旦那さんが駆け付けるにはやや遠くなる…。

 様々なことを考えた結果、特に合併症がない限り、(1)の「外国人の出産を取り扱うベトナムの病院で出産」の道を選択することにしました。それでも、ベトナムローカルの新生児医療は、小児科医の私の目から見て発展途上と言わざるを得ません。生まれる子どもに何か問題が起こったときのことを考えると、心配は尽きないのでした。

あっさりした妊婦検診がフランス式?
 「外国人の出産を取り扱うベトナムの病院」は現在、フランス系のFV Hospitalとシンガポール系のHanh Phuc Hospitalの2つがあります。当時は前者だけでしたので、選択の余地はありませんでした。もっとも、当時はうちのクリニックにフランス人の産婦人科医が在籍しており、検診だけでなく出産まで彼が担当してくれるということで、ここでの出産を決断しました。

 1人目の出産のときは日本で検診を受けたので、「毎回丁寧に胎児の成長を測定してくれる」といった、検診に対するイメージを漠然と持っていたのですが、このときの検診は毎回とてもあっさりしていて、「これでいいのかな?」と思わなくもありませんでした。フランス式なのか、彼のスタイルだったのかは分かりませんが。

 何を質問しても、だいたいは笑顔で「問題ない、問題ない」。彼が唯一悲しそうだったのは、1カ月に私の体重が2kg増えていたときくらいでしょうか。

 個人的にとても残念だったのは、ベトナムでは「母子手帳」がないことでした。妊娠中からわが子の成長を追うことができ、予防接種の履歴も記録できる、日本で使われるような母子手帳は、本当に優れものだと思っています(日本に住民票があれば、日本の役所で発行してもらえるようです〔自治体によって異なる可能性あり〕)。

 ベトナムでは公的な母子手帳は発行されておらず、母親たちは各自が通う病院が発行する「注射手帳」を持っています。ホーチミン市内でさえ病院によって予防接種のスケジュールが異なるので、毎回の予防接種の確認は慎重にしなければなりません。ただし、その記録を後々まで大切にする意識はほとんどなく、子どもが10代半ばに成長する頃にはたいてい紛失しているようですが。

13kg増えても「まだまだ太れ」
 幸い、妊娠の経過はすこぶる順調でした。日本でも同じですが、ベトナムの人も妊婦のお腹の形を見て「きっと男の子ね!」「たぶん女の子じゃない?」と楽しく盛り上がります。妊婦に優しい社会で、道を歩いていても知らない人からさらりとお腹を触られます。

 こちらでは「妊婦が太る=赤ちゃんにたくさん栄養をあげることができる」という認識が根強く、「もっと太れ、もっと太れ!」とよく言われたものです。最終的には13kg増えたので十分だったはずですが、ベトナム人の妊婦は平気で20kg、25kgと増えるので、彼らの目からすれば臨月でもまだまだ不十分に見えたようです。

 また、ベトナムの人々の間では、「妊娠中はスイカやきゅうりなど体を冷やす食べ物をたくさん摂ってはいけない」とされているようです。首の辺りのマッサージも子宮収縮に影響するから駄目なのだとか。縁起が悪いとして、妊娠中は写真に写るのを嫌う人もいるそうです。

 さらに、欧米出身の友人からは「妊娠しているからスシもサシミも食べられないんでしょ。どうしているの?」と何度か言われ、そのたびに「なぜ?」と首を傾げていました。どうやら欧米では、「妊娠中は寿司や刺身を食べてはいけない」と指導されるようです。

 そのほか、彼らの好きなチーズ(一部の種類)も駄目だけれども(後から思えば、これはすべてリステリア感染症のためです)、ワインはグラスに2杯くらいまでなら毎日飲んでもいいのだとか。妊娠中の食事指導にも文化の違いが表れていて面白いですね。ちなみに、私はまったく気にせず大きなお腹で寿司も刺身も食べ続けていましたが、特に問題はなく、刺身好きの友人に希望を与えたようです(でも、まねする方はくれぐれも自己責任でお願いします!)。

 回を改めて、「ベトナムでおめでた―出産編」へ続きます。
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