2014年01月22日

「イヤ〜な予感」の重大性を再認識した一例

「挿管してほしい」と訴えた“ベテラン”患者

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 26歳の白人男性が、2日間にわたる呼吸困難を主訴に来院しました。私を見るなり、「先生、どうにも気分が悪いので、私に気管挿管してください」と言います。バイタルサインを見ると、収縮期血圧が80mmHg台ですが、頻脈というよりは徐脈。頻呼吸もなく、SpO2も97%というところ。本人の話では、血圧はいつもこんな具合だそうです。続きを読む

2013年11月01日

「事故死の要因」1位は、外傷を抜いてモルヒネ

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 突然ですが、アメリカで最も処方されている薬剤は何でしょうか? 処方箋が要るということで、ちょっとした解熱薬や感冒薬は含まずにです。抗菌薬? それとも、高血圧やコレステロールをコントロールする薬剤でしょうか?

 実はここ20年ほどトップが続いているのは、モルヒネ系の鎮痛薬バイコデイン(Vicodin:一般名ヒドロコドン・アセトアミノフェン合剤)なのです。この事実は、アメリカでのモルヒネ系鎮痛薬の乱用、それに伴う過量摂取による死亡の増加とも密接に関連しています。2008年には、アメリカにおける事故死の要因として「外傷」を抜き、「モルヒネ系鎮痛薬」がついに第1位となってしまいました[1]。続きを読む

2013年09月17日

右も左も“APP”

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 今回は「APP」について書きたいと思います。と言っても、スマートフォンのアプリのことではありません。こちらの医療界でAPPと言えば、“advanced practice provider”。医師から独立して医療行為を行うことができる各種の医療専門職を指すのが今や一般的です。少し前までは“mid-level provider”と呼ばれていたphysician assistant(PA)やnurse practitioner(NP)のことです。nurse anesthetistやnurse midwifeを含むこともあります。続きを読む

2013年07月18日

ボストンの爆破テロに医療者はどう対応したか

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 2013年4月15日。いつものようにリバーサイド病院で忙しく働いていた折、ふと患者のベッドのテレビを見ると、何やら深刻な事態が起こっています。何事か聞いてみると、ボストンマラソンのゴール付近で2発の爆発物が炸裂!?

 読者の皆さんもご存知の通り、「ボストンマラソン連続爆破テロ」が起こったのでした。「また物騒な事件が起こったか!」と思ったのは私だけではないようで、ベッドの患者も「また、とんでもないことが起こったよ…」と嘆きながらテレビに見入っていました。続きを読む

2013年03月27日

これは珍しい! 弾丸が回りまわって右心室へ

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 ある金曜の夜、ミネソタ大学リバーサイド病院の救急部を若いカップルが受診しました。ミネアポリスのダウンタウンにある美しい大聖堂の脇を通る高速道路・ルート94。ここを走っていて流れ弾に当たったというのです。この辺りはそう危ない場所ではないはず。「物騒になってきたのかな?」という思いとともに、「また、嘘をつかれているのかな?」という疑念も、われわれの頭をよぎりました。続きを読む

2012年12月04日

病院と医師が貧乏なら、医療訴訟は起こらない?

No money, no malpractice law suit.

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 アメリカの救急医学界で非常に有名な、グレッグ・ヘンリーという先生がいます。特に救急医学の医療訴訟分野で有名ですが、歯に衣を着せない、ちょっとビートたけしを思わせるような毒舌で、面白い話をすることでも知られています。続きを読む

2012年11月06日

看護師チャドは自らに引鉄を引いた

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 先日、わが救急部の看護主任から何やら深刻な文面のメールが届きました。読んでみると、なんと、まだ新任だった救急部の看護師、チャドが自殺してしまった。そのことで、近日中にデブリーフィング(事故後に開かれる会議)を行うという内容でした。続きを読む

2012年08月30日

病院内を闊歩する「取り立て屋」

ビジネスの論理が行き過ぎたアメリカ医療の影

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 突然、ミネソタ大学病院の親会社であるフェアビュー(Fairview)社のCEO(最高経営責任者)から、何やら深刻な文面の電子メールが届きました(おそらくは全職員に)。フェアビュー社とその債権取り立て業務(クレジット・コレクター)を担当していたアクレティブ・ヘルス(Accretive Health)社が、患者に対して恐喝まがいの強硬な支払い要求を行い、患者のプライバシー侵害を含めて法律違反の疑いがあり、ミネソタ州司法長官のローリー・スワンソン氏が調査に乗り出したことを告げる文面でした。この事実はミネアポリスの新聞である「スタートリビューン」にも大きく掲載され(4月25日付)[1]、追って事実上のアメリカの全国紙である「ニューヨークタイムズ」も報道しました(4月29日付)。続きを読む

2012年07月18日

臓器移植で誕生した「100万ドルの男」

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 私が高校生だった頃、「600万ドルの男」というアメリカのテレビ番組がありました。主人公が大けがをした後にサイボーグとなって悪党どもをやっつけるという筋書きのSFドラマで、サイボーグになるために600万ドルかかったということで、このタイトルが付いていました。

 600万ドルには及ばないものの、元副大統領のディック・チェイニー氏も「100万ドルの男」(a million dollar man)になったということで、こちらのメディアでいろいろと取り上げられていました。続きを読む

2012年05月28日

終末期患者が出血で搬送、治療方針は?

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 こちらの言い回しで、「あり得ないこと」を指して“a car too fast”とか“a girl too pretty”と表現することがあります。患者の生命を救おうと「熱くなる」医師はもちろん立派ですが、何事にもバランスは必要で、「熱すぎる」医師、つまり患者の生存を至上目的とする医師は考えものなのかもしれません。続きを読む

2012年03月27日

とっても怖〜い刺青の話

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 刺青(いれずみ)というと、遠山の金さんの桜吹雪や任侠映画に出てくる面々を私は思い浮かべますが、普通の若い人たちのタトゥーと呼ばれるファッションとしてもよく見られるようになりました。日本では銭湯や温泉の利用を拒まれることもあるという「社会的制約」を課せられるそうですが、医学的な見地からは、刺青は下手をすると死に至るとても怖いものだといえます。続きを読む

2012年02月16日

「押し入れから出てきた」人たち

あなたの同僚や患者が同性愛者だったら

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 「押し入れから出てきた」といっても、ドラえもん(正確には引き出しですが)ではありません。こちらでは“coming out of closet” という言い回しがあります。日本でも「カミングアウト」という言葉はかなり使われているようなので、お分かりの方も多いと思いますが、意味するところは「同性愛などの性志向を持つ方々が、そのことを周囲にオープンにすること」です。逆に、隠したままにしておくことを“in the closet”と表現します。続きを読む

2011年10月21日

医師の解雇も左右する患者満足度調査

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 われわれアメリカの医療関係者は、石油会社の重役の方々のように莫大なボーナスはいただけませんが、様々な条件付きでささやかなボーナスをもらえる可能性があります。営利企業のように利益に直接貢献したかどうかではなく、より良質の医療を提供していることを示せば「より良質の」ボーナスにつながるようにできています。続きを読む

2011年07月14日

アメリカの医療IT促進策に見るアメとムチ

日比野誠恵
ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

 2011年3月24日、ついにわが病院でも、電子カルテ/オーダーエントリーシステム(electronic health records;EHR)を旧式から新式のものへ移行するという大規模な「騒動」が勃発しました。

 ここ10年ほど使用していた旧式のFCISというシステムは、カルテのみが電子化されたベーシックなプログラムで、オーダーは出せないし、バイタルサインの記録や検査結果とも連動されていませんでした。一方、新式のEPICというシステムは政府機関が認定したプログラムの1つで、FCISに比べて様々な機能を備えています。医師や看護師によるカルテ、オーダー、バイタルサイン、検査結果、コンサルト、退院指導書といった情報と連携がなされ、それぞれが行われた時刻も記録されます。

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2011年04月24日

こんなことでも救急車を呼んじゃいます



日比野誠恵
(ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授)

 ある日の深夜勤の午前1時頃、80歳過ぎのソマリア人の患者が救急車で搬送されてきました。「顔が腫れているので救急車を呼んだ」そうですが、呼吸困難はないようです。「浮腫か、あるいは感染症か」などと考えながら診に行くと、この方は私のことを知っているようで、うれしそうな顔で親しげに話しかけてきます。そういえば2〜3カ月前、腹痛を訴えて受診した彼を診察したことがありました。

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お見舞いと不安が混在するアメリカの空気


日比野誠恵
(ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授)


 3月11日の朝、早い時間からオンラインケア(簡単そうな主訴の患者に限った、自宅からのオンライン診察)をやっていたところ、仲のよい看護師のサラからメール。「東京の家族は大丈夫か?」と書かれていました。
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医療者が薬物乱用の罠にはまるとき

日比野誠恵
(ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授)

 ある日のこと、深夜勤の看護師マイケルと救急部の看護主任が何やら神妙な顔をして抱き合っている場面を目にしました。後でよくよく事情を聞いてみると、どうやらマイケルが救急部のモルヒネ系鎮痛薬を盗用していたことが発覚し、その日の勤務を最後にリハビリ施設に入るということでした。マイケルは20歳代後半のちょっと影のある「イケメン」。仕事もよくできて頼りになる看護師だったので、みんな非常に残念がりました。彼は当時再婚したばかりだったので、「どうして?」という感じでもありました続きを読む

2010年12月04日

ミネソタの秋の夜長に得る癒し


日比野誠恵
(ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授)

 ここ数回、硬めの話題でしたので、今回はワークライフバランスの「ライフ」に焦点を当て、ミネソタ州のアイスホッケー好きが過ごす、秋から冬にかけての余暇の様子を紹介してみたいと思います。
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2010年11月05日

生涯教育(CME)と利益相反(COI)のジレンマ

日比野誠恵
(ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授)


 生涯教育(アメリカではcontinuing medical education;CMEといわれます)は、医師である限り、避けては通れないものです。患者さんの安全を考えれば、日進月歩の医学知識をアップデートしていくことは大変重要です。

 また、アメリカの場合、医師免許は州ごとに発行されますが 毎年の更新の際に規定の生涯教育CMEを修了していることが要求されます。ちなみにミネソタ州では、3年の間に75時間以上のCMEを行うことが要求されます。さらに、多くの専門医資格の再認定に当たっても、7〜10年ごとの更新の際に似たような規定の教育を修了していないといけません。

 このようなわけで、CMEは臨床医として診療を続けていく上で必要不可欠のものです。幸い、アメリカのCMEのプログラムはバラエティー豊かに用意されており、受講者のワークライフバランスも考えられていることが多いので、さほど苦痛ではありません。続きを読む

2010年07月15日

勃発!アメリカ史上最大の看護師ストライキ

日比野誠恵
(ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授)



 何ということでしょう! 2010年6月10日、わがミネソタ州で2002年以来の看護師ストライキが決行されました。今回のものは、看護師のストライキとしてアメリカ史上最大規模だそうです。

 ツインシティー(ミネアポリスおよびセントポール)都市圏にある14病院の看護師、約1万2000人が丸1日、医療機関からいなくなり、病院側は他州から臨時雇用の看護師を手配してしのぐという事態に至りました。日本でも毎年春闘が繰り広げられていますが、看護師のストライキというのは、あまり聞いたことがありません。

 本連載のテーマである「ワークライフバランス」ともかなり密接に関係するニュースですから、今回はこのストライキに焦点を当ててみたいと思います。続きを読む